2025.03.10 小野 鎭
一期一会 地球旅 352 添乗中のトラブルに備えて:三種の神器?
一期一会・地球旅 352 
添乗中のトラブルに備えて:三種の神器?

 添乗業務で飛び回っていた頃は、ホッチギス(ステイプル)、ボールペン、カーボン紙、手袋などは添乗鞄にいれ、スーツケースの中には、ドライバー、ガムテープ、そしてマジックインキなどを入れるようにしていた。自分にとっては、いわば、三種の神器? 加えて、ヨーロッパへの添乗が多かった70年代は、ドイツ製の湯沸しポットを携えていたことも多かった。お客様が部屋でインスタント・ラーメンを召し上がるとか、日本茶を飲まれるときに熱いお湯を希望されることが多く、フロントやルームサービスに頼んでもすぐには持ってきてくれないことが多い。持ってきてもらってもお湯がぬるく、用を為さない、などの不満があることが多く、それに応じて喜んでもらおうと考えた結果であった。しかし、ポットの中にラーメンをそのまま入れられて使い終わった後、洗い流されておらず、脂やにおいが残っていて他のお客様にすぐには使っていただけず、苦労したこともある。その後、コップの中に差し込んで簡単にお湯を沸かせる器具が海外旅行用品専門店等で売り出され、それを持参される方も多くなった。そんなわけで、この重たい湯沸しポットは出番が無くなり、押し入れの奥にしまい込んだままになっていた。それも、いつしか不用品として処理したのか今は残っていない。 
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手袋はお客様全員のスーツケースをターンテーブルから降ろすとか、バスのトランクに積み込むとき、手を痛めないように特に寒冷時は必需品であった。ガムテープはスーツケースが壊れたときの応急修理や視察時に団員各位の臨時の名札として胸に張り付けていただくなどの便利さもあった。ホテルのお風呂(浴槽)の栓が不具合でうまく機能しないとか、浴槽の栓が無くてお湯が貯められないなどの不具合があったこともある。そんな時は、ホテルにあるフェイスタオル(小さなタオル)を丸めて詰め込むことで栓代わりに使ったこともある。ヨーロッパなどの古いホテルでは、お風呂の不具合はよくあることでお客様は部屋係やフロントにそのことをうまく伝えられず、真っ先に添乗員に苦情を言われることが多かった。こちらからホテル側に申し出てもすぐには直してもらえないとか、明日、修理させるという返答もある。 

 そんなときは、自分がエンジニア代わりとなって、部屋に行ってみると使い方がよくわからないとか、簡単な修理で間に合うことも多かった。いつも持参しているドライバーが役立つことが多かった。とにかく、昼となく夜となく、多忙な添乗業務に打ち込んでいたころが懐かしい。浴槽の壁に上から紐がぶら下がっていることがある。よく見ると、小さな札が付いており、ご気分の悪い時にお知らせくださいなど、あるいはもっとよくわかるように「Emergency」と英語で書いてあるところも多い。それに気づかず、シャワーと勘違いして引っ張ったため、ドアをノックされて慌てられる方もあった。 

 アメリカなどの大きなホテルでは、フロントにクレームを言う前に部屋係またはエンジニアに電話をすることが最初の解決手段。うまくいけば数分で道具を携えたおじさんがやってきて、浴槽の栓だとか、お湯と水の調整など、あるいは洗面台の不具合を直していく。ベッドサイドのテーブルの電灯の電球が切れていることもよくある。小さなメモが置いてあり、「お部屋の不具合があるときはどうぞお申し出ください、お客様のご指摘で当館がうまく管理されますので助かります。」等といった文章が書いてあったことも覚えている。今もそうであるかどうかは分からないが、とにかく、黙っていてはダメ、「沈黙は金」ではなく、「雄弁が金である」ことを再認識したものである。 

 フロントなどにクレームをしてもスタッフは、ほとんどの場合は「すみません」だとか「申し訳ございません」などとは言わない。最初から、ホテル側の非を認めることになり、後からトラブルになることもあるため、ホテル側の非が確認されるまで、お客様からのクレームを受けた段階では、お詫びはしない、というのが一つの文化なのであろう。日本では、スタッフか主任らしい人が「申し訳ございません、すぐ直させますから」と言って、かなり早いうちに修理してもらえることが多い。多くの場合、メインテナンスが行き届いていることが多いのでそのようなトラブルは多分、少ないのではないだろうか。
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心がけたのは、ロビーに「Assistant Manager」(またはConcierge)という名札が置かれている、または名札を付けているスタッフにトラブルやお願いを申し出ることが多かった。そうすると、何らかの解決や望ましい手を打ってくれたことである。フロントや部屋係の責任者として経験を積んだスタッフがそのポストについていることが多く、言わば、昔の大店(おおだな)の番頭職みたいな役割ではないだろうか。自分の団体がチェックインした後、時間を見て、予め、Asst. Managerに自分からこのグループのTour Conductorであり、〇〇泊するのでよろしく、と挨拶しておくこともあった。 
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ホテルで困ったのは、「洪水騒ぎ」である。お風呂の蛇口を開いて、いっぱいになるのを待っているうちにお湯が溢れて床を水浸しにするとか、どうかすると浴室から外へ流れ出して、寝室(客室)まで広がるなどの大騒動となったこともある。夕食前に、ひと風呂浴びようと、蛇口を開き、その一方でスーツケースの中身を整理するとか、疲れを癒すため、持ち込んだワインやウィスキーなどアルコール飲料を「先ずはいっぱい!」と飲んでいるうちに酔いが回って、寝込んでしまい、洪水を起こすという失態に至 った方が多かった。個室(一人部屋)使用のお客様が起こされることが多かったが、ツインルームであってもお客様同士であれこれ話しているうちにお湯を出しっぱなしにしていることを忘れて、その間に洪水が起きた、などということもあった。原因は、時差病(?)が多く、機内ではよく眠れず、目的地に着いてから、食事時やほっと落ち着いたところで猛烈な睡魔に襲われやすく、そのために起きる失敗であったことが多い。 

 特に多いのが、日本からアラスカのアンカレッジ経由ヨーロッパに着いたその日、またはその翌日などが多かった。70年代まではまだモスクワ経由やシベリアルートではなく、北極圏コースが多かった。東京(当時はまだ、羽田が多かった)を発ち、アラスカのアンカレッジを経て、デンマークのコペンハーゲン、ドイツのハンブルク、オランダのアムステルダム、英国のロンドン、あるいはフランスのパリ着などとなることが一般的。到着後、午前中は市内見学、お昼を食べて引き続き見学となることもあったが多くの場合、早めにホテルにチェックイン、部屋が準備されるのを待つか、うまくいくと、部屋に入れることもあった。夕食までの時間、部屋で一休みして、荷物を片付けてお風呂に入って疲れをとろうと蛇口をひねって、お湯がいっぱいになるのを待っているうちに、ちょっとだけゴロっと横になったところ、そのまま熟睡してしまった方も多い。昼食でビールを召し上がる方も多い。部屋に入って、持参のウィスキーをいっぱい、等という方もある。いずれも心地よい睡魔に襲われてお風呂のお湯を入れていることを忘れて洪水となったことが多い。日本人団体の場合は、ツインルームに二人ずつということが多かったが、全体の人数の都合であるとか、希望により別料金で個室を使われる方もある。結果的に「洪水」は一人の場合の方が起きる割合が高かったような気がする。(以下、次号) 
 
《写真・上から順に》 
・添乗の三種の神器(筆者の場合):昔を思い出して 2025年2月 撮影 
・ロサンジェルス・ビルトゥモアホテルのアシスタント・マネジャーのデスク(右端の白い矢印):同ホテルの資料より(このホテルには、2015年9月にも宿泊した) 
・浴槽から溢れるお湯の例(参考):Helpful Colin資料より