2023.06.19
小野 鎭
一期一会 地球旅 266 カナダの大自然と遊ぼう10
一期一会・地球旅 266
カナダの大自然と遊ぼう ⑩ カルガリー~バンフ
カルガリーについてはほかにもいくつか思い出がある。その一つが知的障害者関係の視察。1982年、トロントで国際精神薄弱研究会議(IASSMD、当時の表現であり、いまでは、国際知的障害研究協会国際学会ということになるであろうか)が行われた。この学会は2年おきに行われており、1976年にアメリカのワシントンDCで行われた会議に出席される方々をお世話させていただいた。それから知的障害関係の福祉や医療、教育関係者などから度々ご利用いただけるようになり、個人的にも興味がわき、言わば門前の小僧などのように勉強するようになっていったと言って良いと思う。トロントで1週間の学会の後、カルガリーへ。ここでは、知的障害児・者への地域ケアや就労支援のためのアルバータ州発達障害者職業訓練センターなどを見学した。今から40年前であり、当時、日本では、通所訓練施設であるとか、収容施設といった区分があったと思うが、生活の場として処遇のあり方については、ノーマライゼーション、脱施設化といった考え方が議論され、様々な動きがあったころだと思う。40年過ぎた今、アルバータ州では、発達障害者などの収入保障と就労支援事業の一環として、Transitional Vocational Program (TVP)=「段階的職業訓練プログラム」とでも訳すべきであろうか、が行われていると紹介されている。
カルガリーからバンフへ向かうにはトランスカナダ・ハイウェイを走るのが一般的。東はニューファウンドランドのセント・ジョンズから西はBC州の州都ビクトリア迄延々7821kmあるという。日本の本州で言えば青森から南下して北陸道経由、下関迄1546kmだそうであるが、その5倍ということになる。カルガリーから東へ行けばプレーリー(大平原)を数千km走っても丘陵地はあっても山らしい山は無さそうであるのでトンネルなどはほとんど無いのかもしれない。カルガリーから西へ走ると車窓には牧場や農場が続き、時々巨大なロールケーキのような束が転がっている。冬の敷き藁にする牧草であろうか。1時間も走るとそれまでまっすぐに走っていたハイウェイもカーブが増してきて、前方には山なみが迫ってくる。いつしか両側には急斜面の山裾まで森林が覆い、さらにその上は灰色の岩山、そして、その上には白雪が見え始めた。いよいよカナディアン・ロッキーのやまふところに近づいているということであろう。やがて、Kananaskis へという標識が出てくる。バンフまでは未だ50kmくらいあると思われるが、このカナナスキスという舌を噛みそうな山岳リゾートにも思い出がある。
カナナスキスは、比較的新しい山岳リゾートらしいが、夏はゴルフ、乗馬、ハイキングなど、冬はダウンヒル、クロスカントリー、スノーモビルなど、さまざまなアウトドア・スポーツが楽しめると紹介されている。1988年、カルガリー冬季オリンピックではアルペン競技が行われて賑わったし、2002年には、カナナスキス・サミット(主要国首脳会議)が行われたことでも知られている。私が訪れたのは、オリンピック後の1990年であった。重度障がい児・者の方々やその家族、法人職員などのグループ、全部で30数名、車いす使用の方が8名おられ、その車椅子も普通より長さが長いとか、幅が広い、あるいは電動ほどではないがかなり重量があるなどの条件があったので旅行手配もかなり慎重に進める必要があった。知的障害の方もおられ、旅行先としては、繁華な観光地でなくても構わない、むしろ、無理なくゆったり自然を楽しむところがいいと思われる、との法人代表からのお申し出があった。宿泊施設はもとより、交通手段のバリアフリー化もまだ十分には進んでいなかった当時の日本、日頃の生活から少しゆったり、ゆっくり大自然の中で休養できるようなところを希望されたのかもしれない。
バンフやジャスパーといった名だたる山岳リゾートは当時もすでに日本で紹介されていたし、自分自身も以前に2度ほど訪れているので大まかなところは承知していたが他にももっと楽しいところがあるかもしれない、また、バリアフリー情報についてもわからないことが多かった。航空会社などの現地資料や政府観光局などに伝手を求めて資料探しに力を入れた。そして、行き着いたのがアルバータ州政府に問い合わせることであった。カナダ大使館から紹介してもらい、問い合わせをすることに漕ぎ着いたのは、1989年の暮れであった。今から30数年前のことであり、当時はインターネットもまだなく、当然E-メールもない。手紙(Air Mail)での問い合わせが最初、そして次第にFAXでのやり取りに進んでいくというのが多かった。いずれにしても英文レターであるので英作文と英文タイプに明け暮れることが多かった。
アルバータ州政府に問い合わせの手紙を出したところ、同州のVisits & Hospitality Director、「訪問親善担当部長」と解釈すればよいだろうか、から丁重な返事をいただき、バンフ周辺であれば、むしろ、カナナスキスをお勧めするという興味ぶかい提案をいただいた。その中には言うところのバリアフリーホテルが数件挙げてあったし、加えてリフト付き貸切バスも紹介してあった。近くには、カナダの身体障害者団体が経営するアクセシブルロッジがあり、森を抜けて湿原や湖水へのトレイルには車いすでも通れるような配慮がなされているとのことであった。バンフまでは3~40分の距離であり、この地域で数日間過ごしたあと、アイスフィールド・パークウェイをドライブして、ジャスパーに到り、最終地はエドモントンとなっていた。もし、日程に余裕があるならばエドモントンに行く途中にCamp He-Ho-Haという施設があり、アルバータの障害者団体が経営しているとのことでここを見学または宿泊することも可能かもしれないとのことであった。エドモントンでは障がい者施設見学や障害者関係議員との会見もできるかもしれない、とあった。最後に、自分は、近々日本訪問の予定があり、その時に詳細を打ち合わせるというのはいかがですか?と結んであった。そこで、この旅行の主催団体の代表に報告したところ、この話を具体的に進めようということになったのは言うまでもない。(以下、次号)
(写真と資料、上から順に)
国際知的障害研究協会(IASSMD)1982年国際学会参加旅行 日程表
カルガリーからバンフへ向かうトランスカナダ・ハイウェイからの車窓風景 農場には、巨大なロールケーキ状の牧草の束が転がっている。2009年8月28日 筆者撮影
カナディアン・ロッキーが近づいてくる! 2009年8月28日 筆者撮影
カナナスキス・カウントリー入り口の案内板 Kananaskis Country資料より
カナナスキス州立公園 1990年9月 筆者撮影