2023.10.10 小野 鎭
一期一会 地球旅 282 カナダの大自然と遊ぼう26
一期一会・地球旅 282
カナダの大自然と遊ぼう㉖ Can-Rock⑯
【気候変動による自然環境の変化:氷河の衰亡と湖水の色の変化】
 
 研究者によると、カナディアン・ロッキーの湖が氷河の衰亡によってトルコ石のような明るい青緑色の光沢を失いつつあるという。メディア関係ステラテジストのマイケル・ブラウンが紹介している話題。併せて、CBC(カナダ公共放送)のニュースでも報道されている。
 
 カナダの山岳生態系の「健やかさ」(the health of Canada’s mountain ecosystems)に関する報告書によると、高山湖の湖水の色に変化が見られるのは、氷河の縮小や消滅による影響の可能性が高いとか。具体的に言えば、アルバータ大学の陸水学者によると、カナディアン・ロッキーの氷河の衰亡に伴うもう一つの犠牲は、氷河によって生成されている高山湖の象徴的な色であるターコイズ色の光沢(トルコ石のような明るい青緑色=明るい緑みの青:JIS慣用色名での定義)が消えてきていることであるという。同大学理学部の生物学教授R.ヴァインブルック博士は第4次山岳報告書に「高山湖の湖水の色を変える力と色褪せの影響」について、概説している。
 
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 それによると、氷河が溶けるとき、氷床の岩石物質を侵食し、その物質(Glacial Flour=氷河粉と呼んでいる)が湖に流れ込み、その岩粉が水中に浮遊して太陽光を反射して、眠くなるような乳白色を帯びたターコイズ・カラー(hypnotic milky turquoise color)を作り出している。ところが、氷河が縮小するか消滅するにつれて氷解水に含まれる氷河粉の量が減少するためこれらの湖水の色は半透明または澄んだ青色を帯びてきているのが見られるという。その実例として、バンフ国立公園にあるエジプト湖を紹介している。(写真は、クラーク・モリソンより)
 
 ヴァインブルック研究室では、特にアイスフィールド・パークウェイ沿いにある高山湖の湖底から採取したコアサンプルを使用してアーカイブ写真の過去の湖水の色と現在の変化を対比した。その結果、現在は透き通った青い湖水もその湖の堆積物を探ってみると、20世紀半ばにはもっと白い粘土のように見えていた。僅か10年ほどの間に、突然、その白い粘土の堆積物の上部が、ほとんどの湖の泥の中に見られるような黒褐色の物質になったという。この例は、ジャスパー国立公園にあるキュレーター湖やジェラルディン湖、バンフ国立公園のマコーネル湖などに見られるとのこと。
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 さらに、同教授は、最近の大気汚染による窒素を多く含む降雨と、山火事の灰に含まれる多くのリンもこれら化学物質が植物の成長を促すため、湖水の色を青でなく、緑に変化させていくと述べている。この研究では、特にルィーズ湖の北東にあるジガデナス湖周辺で2020年も同様の結果が見られたという。(写真は、ジャネット・フィッシャーより)
 
 ヴァインブルック教授は氷河の衰亡と気候変動や産業廃棄物などによる高山湖の湖水の色の変化について次のように言っている。「これらの湖の一部は、歴史的に氷河期以降、何世紀にもわたってかなり安定していた。しかしながら、湖の健康状態は、変わってきている。その変化は何かが起こっているという事実を証明しており、しかも、それはかなり速い速度で起こっている。これらはすべての要因が作用しているため、山の湖を『もとのまま』(as being pristine)と特定するのは非常に難しいだろう。湖面の光沢が失われると、水生生物に悪影響を与える恐れがある。純粋な水の完璧な例(the perfect example of pure water)として考えられてきたこれらの湖水の水質が悪化する可能性を示している。最悪のシナリオは、これらの湖でもシアノバクテリア(酸素を発生する光合成を行う原核生物)または藍藻が発生することであり、それは標高の低い土地にある湖水や米国、ヨーロッパの一部の山岳地帯でも見られる。これまで高山湖については生態学的にも生物学的にもあまり研究されておらず、文書化されてもいない。1万2000年前に氷河が後退して以来、多くの固有種にとって独特の環境となっている高山湖は、比較的きれいで“自然のまま”であるが、藍藻の形成などが起きる可能性もある。これらの湖は、地球温暖化など大気の変化に敏感であり、氷河が一定サイズまで縮小すると、それは容易には元に戻らない」
そして、「近い将来、人類が温室効果ガスの排出抑制に成功すれば、より大きな氷河の一部はそのまま残る可能性がある。しかし、これはおそらく人類がこれまでに直面してきた中でももっとも困難な環境問題であるため、克服するためには我々の多大な努力が必要になるだろう」と結んでいる。
 
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 自分が見てきた氷河湖の例としては、ルィーズ湖やペイトー湖であり、まさにターコイズ・カラーで乳白色を帯びた青緑色であるがこれらの湖もやがて乳白色が薄れて次第に透明のエメラルドブルーに変わっていくのだろうか。日本で出されているガイドブックなどではこれらの湖がエメラルド・グリーンの湖面が美しいと書いてあることが多いが、今回参考にしているCBCやアルバータ大学の資料などには、ターコイズ・ラスター(Turquoise Lustre=Luster)トルコ石のような光沢として紹介されており、興味深い。
 
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 スイスやオーストリアでも氷河作用によってできたといわれている三日月形の湖をあちこちで見てきたが、それほど高度は高くなく(多くは、標高1,000m以下)、上流には氷河がありそこから流れてきている渓流はいずれも氷河粉が含まれているため、灰色または白濁しているが湖に流れ込む頃には傾斜も緩やかになっている。従って、氷河粉は川底や湖底に沈殿しているのであろうか、多くの湖は澄んだ、それこそまさにエメラルド・グリーンの美しい風景が多い。
 
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 スイスでも、東部のエンガディン地方には、ラーゴ・ビアンコ(Lago Bianco=白い湖)がある。標高2234mにあり、カンブレナ氷河から溶け出る水が注いでおり、青白い水の色が美しい湖として紹介されている。世界遺産アルブラとベルニナの景観とレティッシュ鉄道の沿線で絶景ルートとして知られており、アルプスの最高地点を通るベルニナ線が湖岸を通っている。この湖の北側には、黒い湖(レイ・ネイル Lej Nair)があり、上から見ると対照的な白黒の湖が並んでいるように見えるという。この二つの湖の間が地中海と黒海の分水嶺にもなっており、いろいろ特徴のある名勝地である。このラーゴ・ビアンコなども氷河の溶融が進んでいくと、湖水の色が変わっていくのだろうか、興味は尽きない。
 
【資料と写真、上から順に】
《資料》
・Lakes in Canadian Rockies are losing their turquoise lustre(luster)as glaciers fade, said researchers. (Science and Technology Society and Culture Research) :  By Michael Brown    September 24, 2021
・Climate change causing lakes in Canadian Rockies to lose their famous turquoise lustre (luster), says ecologist :  CBC News September 29, 2021
・  ラーゴ・ビアンコ : スイス政府観光局
《写真》
・バンフ国立公園にあるエジプト湖の上空からの眺め。
氷河の消滅により、高山湖に堆積する氷河粉が減少すると、湖水の色は乳白色のターコイズ色から、より澄んだ青に変化する。(CBC News クラーク・モンソンより)
・ルィーズ湖に近いジガデナス湖の湖水の色の変化、左 2015年、 右 2017年(CBC News ジャネット・フィッシャーより)
・ルィーズ湖(レイク・ルィーズ) : 旅行実施団体制作の動画より
・スイス・ブリエンツ湖(ベルナーオーバラント) : 2005年7月29日 筆者撮影
・ラーゴ・ビアンコ、上側がレイ・ネイル、鉄道はベルニナ線 : Gute Reiseより