2023.10.16 あ・える倶楽部
一期一会 地球旅283  カナダの大自然と遊ぼう27
 一期一会・地球旅 283 
カナダの大自然と遊ぼう㉗ Can-Rock⑰ 
【気候変動による自然環境の変化:氷河地形の減少 - その1】 
 もう一つ、CBCのニュースの特集が紹介されている。「アルバータ、BC両州とユーコン準州の山岳氷河の80%が今後50年以内に消滅するだろう」というタイトルで深刻な状況が報告されている。(2018年12月27日)ヒナ・アラム記者の報告。主なところを拾うと、推定20万㎢(日本の本州の約87%)のカナダ全国の氷河のうち、1/4がこの国の西部の山岳部分にあり、この地域の氷河がかつてない速さで後退していること。サイモン・フレイザー大学のデイヴィト・ハイク教授は、この地域は温暖化のホットスポットの一つであり、氷河の変化の大きさは劇的である、と言っている。一例として、ペイトー氷河は過去50年内で質量の70%が減少したという。これは小さな氷河だが、我々が見ることのできる典型的なもの。雪が少ないと溶けるのも速い。氷河は冬の降雪が積もって形成されていき、翌年になっても解けず、次第に厚さが増していき、氷河となっていく。しかしながら、地球温暖化が加速するにつれて降雪量が減少し、急速な融解が重なって氷河の長さと体積が後退しているという。 
 
 カルガリー大学の資料 Research at UCalgary(2023年版)に興味深い報告がある。山岳地帯の水源は飲料水、健康と福祉、農業、食料生産、電力、エネルギーなど産業全般、生態系に至るまであらゆる分野で重要な役割を果たしている。気候温暖がカナディアン・ロッキーなどの雪塊や氷河など重要な山岳水源の危険度合いをさらに大きくしており、悲惨な結果をもたらす可能性がある。世界中の科学者たちがこれらの課題について研究しており、ユネスコでも氷河溶融についての特別グループが様々な問題に取り組んでいる。メンバーはカナダのサスカチェワン大学のJ.ポメロイ博士始めカナダ、チリ、ネパールなどの専門家が加わっている。高山の水の源流は、地球の「給水塔」を形成し、下流の乾燥した地域を支え、海を涵養するほとんどの主要河川の源となっている。これらは雪と氷河によって占められており、地球の淡水資源の70%を占めているが、気候温暖化に拠りこれらの氷河が急速に溶けており、全地球的にきわめて深刻な問題となっている。このグループは、気候温暖化が水源に及ぼす影響を予測する方法を改善し、あらたな気候変動緩和策を開発し、山岳水源に依存する地域社会の回復力を高めることによって、山岳水の維持と管理に取り組むことを目指している。 
 
 D・ハイク氏とアルバータ大学のザック・ロビンソン教授の共著でカナダ山岳クラブから発行された山岳報告では、南極大陸とグリーンランドの氷床を除けば、カナダはどの国よりも多くの氷河に覆われている。カナダ全国の氷河のうち、1/4がこの国の西部の3州にあり、残りは、カナダの北極海諸島に広がっている。山岳氷河は温暖化の影響を受けやすいため、最も早く、最も劇的な氷消滅の兆候を示しており、ユーコン準州にあるセント・エライアス山脈にあるユーコン氷河は、1950年以来全体の氷の面積の1/4を失ったという。氷河の融解速度はヨーロッパアルプスやアンデス山脈でも同様。地球上各地の氷河の急速な融解は海面上昇を促している。また、溶融によって海岸浸食や洪水が引き起こされる一方で、乾燥地帯やダストボウル(砂嵐)を生み出すことの原因にもつながっている。氷河が後退するとより多くの水が下流に流れて氷床が後退し、その場所は乾燥し始める。このように、山は、未来への重要な洞察を与え、何が起きるかを示している、と結ばれている。 
 
 カナダ西部の氷河が融解しつつある中、環境保護活動家らが抱く未来への希望を見出そうとしている。カナダのオタワでの国際研究チームであるノーザン・ブリティッシュ・コロンビア大学(UNBC)の新しいモデリング技術とスーパーコンピューターを使用した研究結果によると、カナダ西部の氷河のほとんどが80年以内に溶けると予測している。サイエンス誌2023年1月号に掲載されたこの研究は、紀元2100年までに地球の気温が2.7℃上昇すると予測、「ほとんどの中緯度地域で広範な退氷現象」が起きると指摘している。UNBC地理プログラムのB.メノウノス教授によると、地球上の推定20万個の氷河をモデル化し、その寸法と質量の時間経過に伴う変化をシミュレートした結果であること。「冬にどれだけの質量が蓄積されるか、そしてどれだけの質量が失われるか、というバランスを見ることが出来る」そうである。氷河は、気候とバランスを保って存在すべきであるが、現時点では地球温暖化を逆転させるという最も極端なシナリオであっても、氷河を救うにはほとんど役に立たない。コロンビア・アイスフィールドのような標高の高い氷河など、アルバータ州は安定して少量の氷が残り続けるが、他の多くの州では完全に消滅するだろう、と続けている。 
 
この研究グループが言う未来への希望と準備。 
カナダ天然資源局の氷河学者M.エドニー氏は、「今あるものを楽しむ」だけでなくエネルギーと水の使用量を減らして「将来に備える」よう強調した。「これらの氷河から流出する水はますます少なくなり、夏の終わりに水の流れがさらに少なくなるだろう」 
メノウノス氏「人々が温室効果ガス排出削減に向けて行動することを期待しつつも、一方では、悲観的な気持ちも抱いている。」と語った。「急速に脱炭素化することは容易ではありませんが、それは氷河に限らず、あらゆる環境要因にとって必要です。」 
研究者、オストバーグ氏「資源採掘に関する規制を強化し、より大きな排出削減目標を早期に設定していれば、カナダ西部の氷河にさらに有望な未来がもたらされた可能性がある。」と述べた。そして「私たちには、もっと前向きな見通しが必要であり、これが世界の変化の速さについての警鐘と学習体験になることを願っている」と付け加えた。 
 
 スイスや北欧、カナダで幾度も氷河地形を見てきたが、訪れるたびに氷河の舌端が退行していること、厚さが薄くなっていることや流れる速度が速まっていることを聞いてきた。今年の暑さは、北半球各地で大きな山火事も発生しており、その影響はさらに地球温暖化を高めているのではないかと気になっている。「コロンビア・アイスフィールド・センターで入手した資料には、100年前と今のアサバスカ氷河の写真が紹介されており、その変わりように驚く。」(以下、次号) 
 
【資料と写真、 上から順に】 
《資料》 
・80% of mountain glaciers in Alberta, B.C. and Yukon will disappear within 50years  :  Report by Hina Alam, CBC News    December 27, 2018 
・2023 Environmentalists hopeful for change amid Western Canada’s melting glaciers 
《写真》 
・ペイトー氷河とペイトー湖 : 2009年8月30日 筆者撮影 
・Water Towers’of the Earth(Gokyo-Ri-Trek-Nepal)として掲載されている写真 : UNESCO資料より 
・最も急速に溶融が進んでいるセント・エライアス山脈の氷原 : HO-Zac Robinson / Canadian Pressより 
・アサバスカ氷河の退化、1918年と2011年の比較:コロンビア・アイスフィールド資料