2023.10.23 小野 鎭
一期一会 地球旅 284 カナダの大自然と遊ぼう28
 一期一会・地球旅 284 
カナダの大自然と遊ぼう㉘ Can-Rock⑱ 
【気候変動による自然環境の変化:氷河地形の減少 - その2】 
 

 カナディアン・ロッキーやスイス・アルプスの氷河地形を見るたびに自分自身でも感じることがある。初めて氷河を見たのは1966年、ヨーロッパに向かう北回りアラスカの上空からであった。陸上では、スイスのチューリヒからイタリアのミラノに向かうゴトハルト峠の前後でみたアルプスであった。日本には、北アルプスや北海道の大雪山に氷河地形の名残としてカール(圏谷)があると聞いているが実際に見たことはなく、地理の学習で知っただけであった。氷河という大きな自然景観を初めて見た時の驚きは今も忘れない。その後、スイス・アルプスはもとより、カナダや北欧で見るにつけその圧倒的な風景とその後にできた巨大なU字谷やフィヨルドなどの景観にも感動を覚えている。 
 

 やがて地球温暖化という全地球的な問題が意識されるようになり、自分自身も氷河の溶融が進み、その舌端が次第に後退している風景を実際に見るにつけ、地球人の一人としても気候変動による環境変化をより関心を持ってみるようになってきた。自分自身が見てきたいくつかの例を挙げてみたい。一つは、スイスのベルナーオーバーラント、典型的なU字渓谷であるラウターブルネンから登山電車でユングフラウ・ヨッホに到り、そこから見下ろすアレッチュ氷河。しかし、実際にこの氷河の上を歩いたことはないので体感したことにはならないが、先日、NHKのBSでアレッチュ氷河がこの100年くらいの間に150mくらい氷河の表面が下がってきたと報じられていたのは耳に残っている。はじめてこの地を訪れたのは1969年、それからこの一帯には40回くらいは行っているので、その間にもこの氷河の表面はかなり下がっているのだろう。 
 
スイスの氷河動きの監視について「GLAMOS」 
 スイスは、面積約4.1万㎢で、日本の九州本土の1.1倍強の広さ。国の南部にヨーロッパ・アルプスが東西に延びており、その山中に大小の氷河がかかっている。資料によると、この国の氷河の総面積は961㎢(琵琶湖の1.5倍くらい)でスイスの国土の2.34%を占めていることになる。これらの氷河について長期にわたる変化を体系的に記録し、監視しているのがGLAMOS(英語表記の場合、Glacier Monitoring in Switzerland)でスイス連邦工科大学(ETH)とフリブール大学およびチューリヒ大学による共同運営組織https://www.glamos.ch/en/imprint#/A51e-12である。この組織は、雪圏委員会と緊密に連携しており、研究はスイス科学アカデミーなどの枠組みの中で行われており、スイス連邦環境局等からの資金援助、スイス気象局、連邦地形局によって支援されているとあり、いわばこの国を代表する氷河監視研究機関と言ってよいのであろう。この機関によると、スイスには大小1400の氷河があり、そのうち176ヵ所について詳細なデータが公開されている。一例として、大アレッチュ氷河https://www.glamos.ch/en/#/B36-26を見ると、ヨーロッパ・アルプス最大の氷塊であり、2017年当時の面積は78.49㎢、2022年から2023年にかけて表面が1.784m下がっており、1870年から2021年までの150年余りで流れが3459m短くなっている。(舌端が退化したということか?)、氷河本体は、3つの支流から成っており、上流で削ってきた岩石などが黒い筋となって続いており、本流の両岸には巨大なモレーン(堆石)を残している。さらに細かい説明があるが、ここでは省略するとして、GLAMOSのデータとしては、氷河の名前、ID番号、表面積、利用可能なデータなど(英独仏伊の4語)が掲載されている。ダウンロードすることが可能であり、その内容の豊富さと緻密さには驚くばかりである。近年の温暖化の影響を受けて今世紀末までには、ヨーロッパ・アルプスの多くの氷河が溶融して消滅するのではないかと危惧されているが、この研究機関のデータなどもその大きな役割を担っているのであろう。写真の説明には、ETHの氷河学者で「グラモス」の責任者であるM.フス氏のチームメンバーがシートに覆われたローヌ氷河を視察している様子が紹介されている。ETHは、1855年創設、レントゲンやアインシュタインも学び、これまで21名のノーベル賞受賞者を輩出するなど、ヨーロッパの工科系大学でもトップクラスの名門校として知られている。 


 ヨーロッパ・アルプスの氷河が今世紀中に無くなってしまうかもしれないということはよく聞いている。フランス南部で地中海に注ぐローヌ川はスイス・アルプスのローヌ氷河が源流となっており幾度か見ているが、温暖化に拠る溶融が急速に進んでおり深刻な問題となっている。そこでこの氷河の溶融を抑えることを目的として、陽光を反射する巨大な毛布で氷の表面を覆っていることが数年前から報じられていた。毛布はその場しのぎに思えるかもしれないが季節ごとの雪解けを最大70%減少させることができると2015年にフランス通信(Smart News 2018/3/12)が伝えている。同様の挑戦は、スウェーデンや、ドイツ、イタリアなど欧州諸国でも試みられておりそれぞれ成果が伝えられている。例として、イタリア北部のトレントにちかいアダメロ山地にかかるプレゼナ氷河をさらなる縮小から救うために奮闘している気候専門家らが、太陽光線を反射し、下の雪が溶けるのを防ぐため、長い布で氷河を覆っている様子が紹介されている。氷河の頂上一帯に幅5メートル、長さ70メートルの細長い帯をひろげ、氷河の約12万㎡をカバーしている。この作業は完了するまでに約1ヶ月かかる。また、この近くにあるパッソ・デル・トナーレ(トナーレ峠)のスキー場では、夏の雪が溶けるのを遅らせ、夏の太陽光を反射するために大きな白いジオテキスタイル・シートで覆っていることが紹介されている。このプロセスは2008年から行われているとのこと。(Reuters、2021/7/5) 
 
 一方では、氷河が溶けるにつれて、その場所に現れる生態系の保護を求める新しい研究が行われていることも報じられている。(The Mainichi Aug.18,2023)それによると、地球温暖化により氷河の融解が避けられないため、世界は消えてゆく氷の下から現れる生態系の保護する準備を始める必要があることを示唆している。(ジュネーブ AP通信) 
地球温暖化を止めるために何もしなければ、世界は2100年までにフィンランドの面積(日本の約90%)に匹敵する氷河を失う可能性がある。気候変動を阻止するパリ協定の目標が達成された場合のシナリオでさえ、氷河の規模はネパールの国土(日本の39%)くらいまで縮小されると予測される(科学誌ネイチャー)。スイスとフランスの科学者は、氷河は、太陽光を反射するとか、灌漑、発電、淡水供給することなど、地球上で重要な役割を果たしており、氷河の融解に対する懸念をさらに高め、気候変動から地球を守る取り組みを強化するよう、呼びかけている。この研究グループの一人であるジャン・B・ボッソン氏は、氷河の後退を遅らせるための取組みが行われているが、それは氷河を救う「決定的な」(decisive)ものにはならない、と言っている。そして、「氷河(が溶けた)後、すべてが失われるわけではない。私たちは、特に氷河の後に続く自然を保護する必要がある」さらに、「北半球で今年は、記録的な高温が記録され、将来さらに大きな影響を与える可能性のある憂慮すべき結果を生み出しているが、まだすべてのデータがそろっているわけではない」とも述べている。 
 
 COP24のパリ協定やその後の規則を遵守して、とにかく気候温暖化を抑えることが全地球的な課題であることを自分自身としても強く思う。とは言いながら、自分は、電気自動車に替えることが容易には叶わず、申し訳ないと思いつつ、今日もハンドルを握っている。 
 
【資料と写真、 上から順に】 
《資料》 
・GLAMOS資料 
・This Swiss Town is protecting its glacier with a blanket.:Smart News / Julissa Trevino  March 12, 2018 
・Italy covers shrinking glacier to save it from summer heat. : Reuters    July 5,2021 
・As glaciers melt, a new study seeks protection of ecosystems that emerge in their place.    The Mainichi (Mainichi Japan)  August 18, 2023  
《写真》 
・ユングフラウ・ヨッホから見たアレッチュ氷河 : 2007年8月12日 筆者撮影 
・Grosser Aletschgletscher 三つの支流が集まって大アレッチュ氷河となっている。上流で削ってきた堆石が黒い筋となって残っている。 GLAMOS資料より 
・ローヌ氷河を白い毛布で覆った氷河を歩くGLAMOS責任者とチームメンバー:The Mainichi (Matthias Schrader) 2023年6月16日より 
・北イタリア、トレント近くのパッソ・デル・トナーレで、スキー場の雪が溶けるのを遅らせ、夏の太陽光を反射するために、プリゼナ氷河を覆う大きな白いジオテキスタイル・シート。:Reuters (Flavio Lo Scalzo) 2020年7月13日より