2024.03.25
小野 鎭
一期一会 地球旅 305 中南米での思い出 12
一期一会・地球旅 305
中南米での思い出 (12)
ブラジル ③ リオ・デ・ジャネイロ(2)
リオでの思い出は、最初の時(1972年)は、はるかに地球の裏側まで来たんだ、という感慨を覚えた以外、具体的な記憶はあまりない。74年に来たときは、僅か1泊でそれも夕方到着して翌日午後にはサンパウロへ発っているのでこちらもわずかしかない。やはり4泊した3回目の時の印象が一番強い。ちなみにリオでの写真としてはカーニバルのパレードやサンバに浮かれる街の人たちの様子がたくさんある。次いで多いのがコルコバードの丘の巨大なキリスト像であるとか山頂からの遠景風景が多い。イパネマやコパカバーナの海岸などは少し歩いた記憶はあるがそれらしい写真は残っていない。写真そのものを撮らなかったのか、それともカメラをもって歩かなかったのかも知れない。今となっては、それ以上の記憶はほとんど残っていない。
1960年代には、日本では「黒いオルフェ」という映画のサントラ音楽がヒットチャートで上位に位置し、ラジオからよくそのメロディが流れていた。映画そのものは、1959年製作のフランス・イタリア・ブラジルの合作だそうであるがリオのファヴェーラと言われるスラム街を舞台にした男女の物語であり、60年代、日本でもポスターをよく見かけた。自分は、映画そのものは見なかったがずいぶん話題になっていた。リオのランドマークと言われるコルコバードの丘の上までバスやタクシーで行ったが町の背後に広がる山の中腹には映画の舞台となったファヴェーラがどこまでも広がりその規模は驚くほどであった。イパネマやコパカバーナ海岸などに並んでいる高級ホテル群やアパート街とは対照的な風景であり、リオのもう一つの特徴というべきか。
もう一つ、ブラジルのメロディと言えばボサノヴァがあり、代表的なメロディとして「イパネマの娘」がある。60年代から70年代にかけて世界中に流行して自分もよく耳にしていたし、今も時々聞くことがある。昨年12月、NHKのBS「世界ふれあい街歩き」でコパカバーナ海岸からボサノヴァの名曲が生まれたイパネマ地区、サンバの聖地の旧市街などが紹介されていた。自分が訪れた70年代、オルフェもイパネマの娘もリオではずいぶん流れていたメロディであると思うが今となっては当時を懐かしむのみである。イパネマの娘を作曲したアントニオ・カルロス・ジョビンはブラジルを代表する作曲家の一人でもあり、リオのガレオン空港は、1999年にアントニオ・カルロス・ジョビン国際空港と改称されたとあり、寡聞にしてそれは知らなかった。
カーニバル見物の合間、一夕お客様とタクシーを借り切ってコルコバードの丘まで上がった。眼下には無数の宝石を散りばめたように光の渦が広がり、中ほどにはぽっかり暗い空間が大きく広がっており、これはグアナバラ湾などの海面であろう。巨大なキリスト像がイルミネーションに照らされ、夜景見物に訪れているたくさんの人々を祝福しているようだった。山の中腹一帯に広がるファヴェーラにも小さな光が連なっていた。また、リオのもう一つのランドマーク、ポン・ヂ・アスカル(Pão de Açúcar=砂糖パンの山)に上がったことも得難い思い出である。グアナバラ湾の中ほどに突き出した半島にそびえる巨大な砲弾型の岩山で頂上は海抜396mだとか。半島の付け根あたりからロープウェイがかかっており、1912年開設とあるから今年はすでに110年余りになる。自分たちが訪れた75年から数年後に公開されたジェームスボンドの映画では、ロジャー・ムーア扮するボンドがこのロープウェイの上で金歯の巨人ジョーズと死闘を繰り広げるシーンがあった。自分はその数年前に行ったばかりであり、それだけに一層迫力を覚えたし、今もこの映画を見るたびにあの大きな岩山を思い出す。
「リオ・デ・ジャネイロ:山と海に囲まれたカリオカの景観」は金の積出港として栄えたリオの文化的景観で2012年、世界文化遺産として登録されている。急峻な山とコパカバーナやイパネマに代表される海岸に挟まれた都市景観が特徴。サンバやボサノヴァなどの音楽や芸術に影響を与えた点も評価されている。コルコバードの丘(海抜710m)には、ブラジル独立100周年を記念してキリスト像が建設され、町のシンボルとなっている。ちなみに「カリオカ」とはリオに住む人たちのこと、言わば、リオっ子ということになるのだろうか。また、サンパウロに住む人たちは「パウリスタ」と呼ばれており、カリオカもパウリスタも昔は、日本でも喫茶店の名前としてよく使われていたと思う。(以下、次号)
【資料と写真、上から順に】
《資料》
・黒いオルフェ & イパネマの娘 : Wikipedia & NHK BS「ふれあい街歩き」
・世界遺産「リオ・デ・ジャネイロ:山と海に囲まれたカリオカの景観」 : 世界遺産大辞典 下巻(世界遺産アカデミー発行)
《写真》
・コルコバードの丘から見たリオの市街(中ほど右側のとがった山が砂糖パンの山) : 1975年2月 筆者撮影
・映画「黒いオルフェ」(Orfeus Negro)のポスター : Wikipedia
・Pão de Açúcar砂糖パンの山)への索道(ロープウェイ) : 1975年2月 筆者撮影
・コルコバードの丘のキリスト像 : UNESCO World Heritage (Rio de Janeiro : Carioca Landscapes between the Mountain and the Sea)