2025.04.14 小野 鎭
一期一会 地球旅 357 スコットランドでの思い出(1)ハイランド地方の旅
一期一会・地球旅 357 
スコットランドでの思い出(1)ハイランド地方の旅 

 英国と言えばロンドンが圧倒的に多いが、スコットランドも数回訪れた。最初は、1974年、それから翌年も。その後も1988年までほとんど数年おきに訪れた。多くは、医療事情視察団や医療検査技師の国際会議、あるいはアイルランドのダブリンで開催された知的障害研究国際会議の後に立ち寄るなど次第にスコッチなまりの英語(?)も耳に心地良くなっていった。後年お世話になったオーストラリアはメルボルンのF.ビア氏やあの名優ショーン・コネリーの発音や話し方は好きだった。そうは言いながら、イングランド北部のチーズ工場でほとんど馴染みのない酵素の種類や製造工程については専門語やその技術内容がさっぱりわからず、冷や汗をかいた後、エディンバラに着いたことも思い出す。そのあとは、2013年、高校時代の同期生を案内してほとんど四半世紀ぶりに訪れたが昔と違ってここもOver-Tourismを自ら体験した感じであった。 
 
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 初めて訪れたのは、社会保険病院関係団体の視察団、33名、33日間で世界一周、何ともスケールの大きな旅行であった。ここで訪問したのはWestern General Hospital,ロンドンのKing’s Fund Centreの紹介で、手厚くもてなしていただいた。この病院は、エディンバラ大学医学部の教育病院であり、この地域一帯 ロシアン保健管区(Lothian Health Board)の基幹医療施設でもあった。ここでの滞在を終えて、スコットランドのもう一つの大都市グラスゴーでGeriatrics Care Facility今風にいえば、特別養護老人ホームと介護老人保健施設をミックスしたような医療・保健施設であった。Geriatrics=老人病ということばを覚えたのもこの時であった。 
 
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 ここでは、グラスゴーには宿泊せず、近くにあるロッホ・ローモンド(Loch Lomond)へ行き、湖上遊覧を楽しんだ。スコットランドでは、ハイランドと呼ばれる広大な地域にたくさんの湖沼や細長く入り組んだ湾入がある。多くが、フィヨルド地形であり、スコットランド語またはゲール語では、湖のことをロッホ(Loch)と呼んでおり、良く知られたところではほかにネッシー(怪獣?)がいると言われているネス湖(Loch Ness)などがある。また、海が大きく入り込んでいる入り江は、Firthと呼ばれており、エディンバラから望むのはフォース川の入り江(Firth of Forth)。ここにはフォース鉄道橋がかかっており、世界最初期に架けられた複数接合式カンチレバー橋で世界遺産になっている。この橋の建設には、日本人の渡邊嘉一が建設技術者の一人として加わっており、スコットランド銀行の20ポンド紙幣にカンチレバーの原理を示す写真が印刷されておりその真ん中にいるのがこの人物。日本に帰国してからは多くの鉄道経営に参画したとある。そういえば、1988年、国際知的障害研究会議に出席後、エディンバラに寄られたとき、このフォース鉄道橋を渡ることを提案して往復したことも懐かしい思い出。自分もちょっとした乗り鉄だった。 
 
 ロッホ・ローモンドでの湖上遊覧では、船の周りを元気よく飛び回っているカモメたちに餌をやるなどメンバー各位と童心に帰り、スコットランド民謡「ロッホ・ローモンド」を口ずさんだことも思い出す。この時のお一人が、ある総合病院の総看護婦長(看護局長)で私と同じ故郷(福岡県嘉穂郡穂波町=現・飯塚市)出身であることを知り、知遇を得た。帰国後は息子が怪我をしてその病院に駆け込んだり、私自身が消化器内科にかかるなど、今日まで数十年間この医療施設にはお世話なっている。 
 
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 湖上遊覧を終えて、この日は、湖の西側のアロッカーという小さな町の素朴なホテルに泊まった。30名という大人数であり、ホテルはほとんど全館を占めたような状態だった。夕食では、スコットランドの郷土料理と言われている「ハッギス」(茹でた羊の内臓と肉のミンチに玉ねぎやオートミールなどを合わせて羊の胃袋に詰めた料理でスコットランドの伝統料理)が出され、その不思議な味にほとんどのメンバーが目を白黒。朝食のメニューにある燻製ニシンをフライにした「キッパー」という魚料理はロンドンでも味わっていたし、特にエディンバラで美味しくいただくなどスコットランド名物にも少しずつ馴染んでいたがハッギスは初めてであった。その味は、それから10数年後の1987年にオセアニア医療事情視察団でニュージーランドのワナカからオプショナルツアーとして訪れたダニーデンという町で味わったことを思い出す。 
 
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 アロッカーからハイランド地方の中央部をバス旅行、タータンチェックのキルト(スコットランド衣装)に身を包んだバスのドライバーがこのあたりの集落や大小の細長い湖沼群(Loch)について説明してくれた。通り過ぎる家々の庭先には、美しいシャクナゲの花が目を引いた。そこで、この花の名前を聞いたところ、ローデンドロンと教えてくれたが辞書を見てもなかなか聞き取れず途中で休憩した時、綴ってもらったところRhododendronであった。とにかく、自分はスコッチなまりの英語に慣れておらず、理解するのに必死であった。このあたりは、スコッチウィスキーの本場、ところどころでウィスキー蒸留所(Distillery)の看板を見かけた。日本流にいえば造り酒屋と言ったところであろうか。そのうちの一か所を訪れたが、先生方は馥郁たる香りのウィスキーの味にご満悦。スコットランド人に言わせると、スコッチは水割りでなく、ストレートで飲んで、水は別のグラスに入れて横に置き、別々に飲むのが正統派と言っていたが、下戸の私にはサッパリわからなかった。ドライバーに言わせると、代表的な銘柄としてモルトウィスキーのGlenfiddichやGlenmorangieが知られており、空港の免税店で買って帰ると良いと勧めてくれていた。この旅行を機にして、それからは緑色のビンのグレンフィッディックを日本に持ち帰ることが多かった。とはいっても、自分で飲むのではなく、顧客先などへのお礼に持って行くことがほとんどであった。 
 
 因みにglenとは、スコットランドやアイルランドでは、山間の小さな谷間や峡谷を指しており、多くの谷間で見かけるせせらぎは黒っぽい水が多かった。スコットランド一帯に多い泥炭層(ピート)の成分が含まれており、そのために清流であっても黒っぽい水が多く、この澄んだ水とピートがウィスキーづくりにはとても役立っているとのこと。一方で、山や丘はbenと呼んでいる。イギリス(大ブリテン島)の最高峰は、Ben Nevis(1344m)でスコットランド西部にある。 
 
 ところで、半世紀も前に覚えたシャクナゲや紫陽花(hydrangea)は、今も覚えているのに認知症(dementia)の英語表記はすぐに忘れてしまう。自分の認知能力を疑いたくなってしまう。(以下、次号) 
 
《資料》 
フォース鉄道橋 : すべてが分かる世界遺産1500下 世界遺産アカデミー発行 
 
《写真、上から順に》 
・Western General Hospital にて、 病院での通訳には苦労していた。(1974年) 
・国際知的障害研究会議(アイルランド・ダブリン)の帰路、エディンバラのカール トン・ヒルにて 後列右端が筆者 1988年 
・ロッホ・ローモンド : 1974年 筆者撮影 
・アロッカー : West Coast 200資料より