2025.08.25
小野 鎭
一期一会 地球旅 376 ドイツの思い出(16) ドイツ南部にて(1)

一期一会・地球旅 376
ドイツの思い出(16) ドイツ南部にて(1)
ドイツの思い出(16) ドイツ南部にて(1)

ドイツ南部と言えば、ロマンティック街道についてもいくつか思い出がある。ロマンティック街道(Romantische Strasse)は、フランクフルトの東南方向のヴュルツブルクから南へ、バイエルンアルプスの麓に近いフュッセンまで約400kmの街道ルートである。ドイツでは、観光街道(Ferienstrasse=休暇街道)と呼ばれており150以上のこうした観光コースが指定されている。ここでの街道とは、一本の道があるというのではなく、ほぼ直線状に連なった観光名所を地図の上でつなぎ、続けて観光するのに便利なように案内した順路のようなものである。ロマンティック街道は、街道沿いに点在する中世都市ローテンブルク、ディンケルスビュールなど)や美しい城(ノイシュヴァンシュテイン城やハールブルク城など)、宗教建築(ヴュルツブルクのレジデンツやヴィースの教会など)、工芸品(クレーグリンゲンのマリア昇天の祭壇など)が点在し、フランケンワインやドナウ川のマス料理など観光資源が豊富なルートで、最も人気の高い観光街道の一つである。今では、ヴュルツブルクのレジデンツ、ヴィースの教会、そして、ノイシュヴァンシュテイン城が今年世界遺産になっている。27か所の中世都市などが街道に沿った町としてあげられているが、自分はその内、11か所には立ち寄るとか、宿泊して古い街路を歩いたことなどを思い出す。

ローテンブルク、正しくは、ローテンブルク・オプ・デア・タウバー(Rothenburg ob der Tauber=タウバー川に沿ったローテンブルクということになるのであろうか。中世の宝石箱と呼ばれたり、ロマンティック街道の花とかいろいろ紹介されているが、10世紀ごろから栄えた街道筋の町で中世からの街路が残り、古い建物と赤い屋根、石造りの街路、町を取り囲む市壁など訪れた人には何百年も昔の町に迷い込んだような雰囲気に浸れると評判。宿泊したことも数回あるし、バス移動でシュツットガルトやミュンヘンなどとどこか次の目的地に行くときに立ち寄るとか、食事を摂ったこともある。
思い出としては、一つは宿泊した時の話。この町には、かなりのホテルなどがあるが多くはそれほど部屋数もなく、特に町の中心部にあるホテルは昔からの建物であるとか数軒の建物をつなぎ合わせたホテルなどがある。中でも代表的なホテルとしてはEisenhut Hotel、市庁舎やマルクト広場(中央広場)から至近にあり、ホテルの紋章は鉄かぶと、中世からの戦場で使われた兜(かぶと)が玄関先に飾られている。グループで宿泊するときは、かなりの数の部屋が割り振られるので大きな部屋で窓からは美しい市街地や庭園などを望める部屋もあれば、隣の建物の壁などに面した部屋もある。表通りに面した部屋からは、夜ともなれば淡い街灯に灯された街路を眺めることもできる。夕食時、眺めの良い部屋などを割り振られたメンバーからは喜ばれるが、その話を聞いてちょっとご機嫌斜めなお客さまもある。ある時、夕食は、市庁舎に面した大きなビヤホール風のレストランでお摂りいただいたことがある。市庁舎と言えば、大酒飲みの市長が町を救ったという逸話もあり一番の観光名所でもあるだろう。ビアレストランでは、食事もさることながら片手では持てないほどの大きなジョッキにメンバーは大喜び。私は、生来の下戸で専らウェイターの手伝いに回ってお客様の注文を聴き取ることなどに忙しい。ホテルの部屋の向きが悪いことでご機嫌を損ねたお客さまもいつしか顔を赤らめて大賑わい。ドイツに限らず、古都や旧市街にある伝統的なホテルなどは雰囲気がいいが部屋割りでは苦労することもある。

ローテンブルクで迷子探し(?)の思い出
第二次大戦の戦後処理で行われた裁判で有名なニュルンベルクを出てアンスバッハという町で病院見学、その後、ローテンブルクに立ち寄って中世からあるこのゆかしい街を見物。市庁舎前で解散、小一時間のフリータイムをとった。この町は、周りを市壁で囲まれており、大型バスは市内には入れない。町の外の駐車場から市庁舎前広場(マルクト広場)までは徒歩10分くらい。集合は、駐車場に止まっているバスということで集合時間と場所について念を押して解散した。石畳の街路を散歩したり、市壁の上に上がってタウバー渓谷の美しい眺めを楽しんだり、一年中クリスマス用品を売っているお店でちょっと早いクリスマスの飾りつけを買ったり、カフェでビールやコーヒーを飲むなどして一休みなど、思い思いに過ごしていただいた。私は、カフェでコーヒーを飲んで一足先にバスに戻り、ドライバーとこれから後の行程について打ち合わせなどをした。この日の目的地は、南ドイツでもう一つの大きな町、シュツットガルトであり、ここからアウトバーンを走って約1時間半の予定であった。

午後の陽射しが少し斜めに当たり始めたころ、集合時間にはほとんどのメンバーがバスに戻られたが、あるメンバーから臨席のDr.○○がまだだと申し出があった。結局、集合時間になってもその方は戻ってこられず、心配になってきた。今と違って携帯もなく、連絡の取りようもない。隣席のドクターは市庁舎近くの土産物店で先にバスに戻っているよと言って先ほど別れたとのこと。多分、その店で買い物が長引いているのかも?
そこで、私はその店まで行ってみようと市壁の門をくぐって、中心街へ急いだ。市内は道が入り組んでいるが駐車場への通りはそれほど複雑ではないので行き違う心配は多分ないであろうと思い小走りに市庁舎方面へ向かった。迷子になっているとは思わなかったが、事故に遭ったかもしれないとか、何かトラブルに巻き込まれていなければいいが、と想像は悪い方へ進んでしまう。門をくぐって少し行ったところで、そのドクターがリュックサックを背負って、お土産の入った紙袋を下げて走ってこられた。ホッとした! 氏は開口一番、「ごめんなさい!」と詫びられた。聞いてみると、土産物を買ってバスに戻ろうと途中まで来たところで先ほどの店で買い物をしたとき、旅券や旅行者小切手、日本円など貴重品を入れた懐中袋をカウンターの上に置き忘れてきたことに気づいたとのこと。買い物をして、土産物をリュックサックに入れたり、お土産袋を手に下げたりしているうちに、懐中袋を出してそのまま置き忘れたらしい。集合時間を過ぎていることは分かっていたが、何しろ旅券と全財産を無くしたのでは話にならない! その瞬間、先ほどの店まで戻ったとのこと。幸い、店で預かってくれていたので返してもらい、一刻も早くバスに戻らなくては!と自らに言い聞かせて駐車場目指して走っておられたところであった。

駐車場では多くのメンバーがバスから降りて待ってくれていたし、バスの中でも心配してくれていた。ドクターは半泣きの状態で皆さんに頭を下げてワケを話してお詫びして一件落着。バスは、30分くらい遅れて出発、アウトバーンを快走して、シュツットガルトのホテルに着いたのは、予定時間より、少し遅れただけであった。その日の夕食はホテルであったが、そのドクターからワインが贈られて、全員で乾杯!
この出来事の後、フリータイムは必ず二人以上で行動していただきたいこと、集合場所は遠くの駐車場など離れた場所ではなく、市内中心部のわかりやすい場所などとして、そこからバスまでは一緒に戻ることにした。添乗中は様々なトラブルを経験してきたが、お客様が起こされるトラブルを未然に防ぐために様々な工夫をする一方、自分自身でもトラブルの再来を防ぐために毎回の経験から方法を改めるとか、自らに言い聞かせるなど少しずつ熟達していったと思う。それでも毎回新たなトラブルや類似の出来事は後を絶たなかった。言えることはトラブルが起きても冷静さを無くさず、少しでも早く原状回復に努めることが大切と心がけたように思う。(以下、次号)
《資料》
ロマンティック街道(Romantische Strasse): Wikipedia
《写真、上から順に》
・ロマンティック街道の道路標識(日本人は特にこの道が好きらしい):Veronika’s Adventureより
・Rothenburg ob der Tauber: Wikipedia より
・ローテンブルクのレストランにて、団長はご機嫌 左が筆者: 1980年代
・ローテンブルクのマルクト広場にて、座っているのが筆者 1980年代
・ローテンブルクのバス駐車場にてメンバーを待つ筆者: 1989年9月10日