2025.10.06 小野 鎭
一期一会 地球旅 382 ドイツの思い出(22) クアオルト(保養地)にて(1)
一期一会・地球旅 382 
ドイツの思い出(22) クアオルト(保養地)にて(1) 
 
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ドイツでは、他にも書きたいことがあります。一つは、クアオルト(Kurort)の 
こと。日本クアオルト研究機構によると、ドイツ語で、クア(Kur)は、「治療・療養、保養のための滞在」、オルト(Ort)は、「場所、地域」を指し、これが合わさったもので「療養地・保養地」ということになる。「ドイツのクアオルトは、国が指定した特別な地域(基本的には自治体)で次の四つの要素があり、公的医療保険が適用される地域である。実際には、今では療養地というより、健康保養地的性格が強くなっている。4つの要素とは、土に由来する温泉や泥、蒸気、気候、海、クナイプ式により治療、緩和、予防効果のある自然の治療薬ということになる。クナイプ式とは、自然治療と自然環境を利用した治療手法を言う。ドイツでのクアオルトは、温泉が151ヶ所、泥・蒸気の場所が56ヶ所、海が91ヶ所、気候とクナイプ式が各68ヶ所指定されているとのこと。実際には複数の要素による指定を受けているところもあり、実際には374ヶ所(2007年)になるとのこと。クアオルトに必要な施設・設備とは、治療する施設、クアパーク(保養公園)、クアハウス(保養・交流のための施設)例えば温泉のクアオルトであればテルメ(温泉施設)や温泉水が飲める場合は、トリンクハレ(飲泉所)が必要。テルメは、ほとんどが体温以下の水温であり、水着を着用し、男女が一緒に利用できる。」とあります。 
 
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日本では、温泉とは、一般的には地熱により25℃以上になった地下水が湧き出る場所または浴場施設のある所を指しており、鉱泉は鉱物質を含んで湧き出る泉で温泉と冷泉を指すことが多い。(国語辞典より)ドイツ以外にも、イタリア、スイス、フランスなど温泉施設はたくさんある。古代ローマでは、テルメ(温泉または入浴施設)が好まれ、市民生活でも重宝されたことが知られており、代表的なところでは、ローマ市内のカラカラ浴場跡がある。古代ローマが版図を広げていき、街づくりが進めばテルメが設けられており、スイスやドイツでは、ローマ兵が傷を癒すとか休養したところが各所にある。古代ローマが北進し、今のスコットランドとの境界線辺りまで占めていたが、イングランド南西部にバース(City of Bath)がある。一帯には古くより温泉が湧いており、1世紀にローマ帝国の支配下で天然の温泉を用いたローマ式の大浴場や神殿が建設されていた。その後のアングロサクソン時代に「ローマ時代からの熱い温泉がある」という意味から古英語で温泉を意味する語が「バス」と呼ばれるようになった。 
 
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日本では、クアハウスという表現が使われる施設があるが、日本クアハウス協会では、「クアハウスは、温泉の入浴効果だけでなく、運動とリラックスを取り入れて楽しみながら健康になろうとする施設。つまり、のんびり静養して体の不調を取り戻すわが国古来の湯治に温泉医学などの成果と遊び心を取り込んで積極的に役立てられる健康施設」としている。ということで従来の温泉旅館や温泉ホテルという表現からクアハウス○○旅館、クアハウス○○ホテルなどとして紹介されているところが目立つ。一般社団法人草津温泉観光協会資料によれば、「ドイツのエルウィン・フォン・ベルツ博士は明治11年ごろから群馬県の草津温泉を数回訪れて温泉を分析して正しい入浴方法を指導すると共に、草津は高原の保養地として最も適地である。草津温泉には、優れた温泉のほか、日本でも最上の山と空気と全く理想的な飲料水がある。こんな土地がもしヨーロッパにあれば、どんなに賑わうだろう」と称え、世界無比の高原温泉であることを世界に紹介した。(草津の恩人より) 
 
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クアオルトと自治体としての説明が長くなったが、医療や福祉、年金関係施設などの視察団を数多く添乗してきたことで、ドイツ始めヨーロッパのクアオルトやテルメを各地で訪れた。とりわけ、幾度か訪れ、かつ印象深いのがバーデンバーデンやウィスバーデンである。バーデンバーデンは、ドイツ南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州のバーデン地域にあり、州の名前自体、古代ローマ時代から温泉があり、浴場も残っているところからこの地名となっている。バーデンバーデンは、ドイツ語の「入浴する」という意味のBadenであり、この地は温泉が豊富であったことから、Baden in Badenと呼ばれ、のちにそれが短縮されて、Baden-Badenという名称になったとある。(Wikipedia)この町は、ドイツ最大の温泉地であり、施設としては、大温水プール、サウナ、打たせ湯、レストランなどのある「カラカラテルメ」、大理石浴槽があり、療養目的施設である「フリードリッヒ・バート」、ドイツ最大のカジノのあるクアハウスなどがある。町全体が美しい森と樹林に囲まれており、花々が咲き乱れている庭園などがたくさんある。 
 
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当地を初めて訪れたのは1974年、社会保険病院関係団体の医療事情視察団の添乗であった。この町には、州立や市立、ドイツ赤十字(DRK)系や民間団体などの医療施設やリハビリテーション施設、美容関係施設、泌尿器関係クリニック、サナトリウムなどの治療・療養施設がある。このうちのどの施設を訪れたかは覚えていないが、多分、温泉を利用した公立の医療施設を見学し、そのあと温水プールで泳いだことは覚えている。クアハウスは勿論訪れたが、よく覚えているのは豪華なカジノであった。アメリカのラスベガスなどのカジノに比べると規模はそれほど大きくはないが、高級サロンと言った趣は覚えている。初めてヨーロッパに行った1966年にニースで宿泊し、モナコのカジノを見学して度肝を抜かれたが、総じてヨーロッパのカジノはドレスコードがあり、ネクタイ・スーツ姿で入ること、旅券を提示することなど、昔も今も大人の社交場とはこう言うところを指すのだろうかと思った。 
 
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一方、フランクフルトに近いヴィスバーデンは紀元1世紀ごろから温泉地とされていたようであるが、19世紀初めにナッサウ公国の首都となったことがきっかけで世界中の王侯貴族に愛される高級保養地となった。その後、ヘッセン州の州都となり、セレブご愛用といわんばかりの優雅なクアハウス「カイザーフリードリッヒ・テルメ」が知られている。(Bundestor社)この町は農業や後継者養成、社会保険関係、医療施設見学などでよく訪れた。2000年代に入ると日本では介護保険事業が行われるようになったが、その前の1990年代には、公的介護保険(Pflegeversicherung)について行政の対応など先行事例を学ぶべく日本から国や自治体、関連団体などによるドイツの州政府や関連機関などへの訪問が相次いだ。担当専門官からは、日本では視察報告などの情報は共有されていないのでしょうか?と疑問を呈され、ちょっと恥ずかしい思いをしたことが思い出される。この町では、その名もナッサウエル・ホテルに宿泊し、洒落たプールで泳いだことも思い出される。この項を書くにあたり、このホテルのH/Pを見ると今も案内があり、嬉しくなった。(以下、次号) 
 
《資料》 
・クアオルト:日本クアオルト研究機構 
・クアハウス:日本クアハウス協会 
・バースの市街(The Great Spa Towns of Europe):すべてがわかる世界遺産1500 下巻、特定非営利活動法人 世界遺産アカデミー
・エルウィン・フォン・ベルツ博士 :草津温泉の恩人:社団法人 草津温泉観光協会 
 
《写真、上から順に》 
・バーデンバーデンのクアハウス:Baden-Baden com より 
・ローマ式大浴場と神殿:The Great Spa Towns of Europe, UNESCO World Heritageより 
・エルウィン・フォン・ベルツ博士記念碑 :社団法人 草津温泉観光協会より 
・バーデンバーデン市内風景:1974年 筆者撮影 
・バーデンバーデンにて筆者:1974年 
・Hotel Nassauer Hof : Visit Wiesbaden Webb資料より