2025.12.22 小野 鎭
一期一会 地球旅 393 大阿蘇から久住への旅(4)
 一期一会・地球旅 393 
大阿蘇から久住への旅(4) 

翌日は、幸い好天、さわやかな青空、この日は次妹夫婦のクルマに乗せてもらう。国道を少し戻り、一心行の大桜という案内のある所へいった。春であればきっと大賑わいであろうと思うが、秋は静か。目の前には南郷谷と呼ばれる阿蘇盆地の南側の平野が広がり、その向こうに外輪山がうすいもやの中に浮かび上がっていた。
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この近くに白蛇神社があり、参拝することにした。この地で発見された白蛇様が祀られているとのこと。金運(宝くじ当選)、子宝、病気平癒、合格祈願、商売繁盛、その他の願いが叶うとある。ずいぶんたくさんのことにご利益があるということで参詣される方が多いようです、と自社のホームページに書いてある。正式名称は、白蛇神社 阿蘇白水龍神權現とある。境内には幸い無料駐車場があるが週末とあってすでにほとんど満杯状態であった。ナンバープレートを見ると地元熊本県各地はもとより、大分、宮崎、鹿児島などが多かった。本殿にお参りして、守り神の白蛇様はどこにいるのだろうと境内を見回していると参拝を終えた人がそこですよ、と笑いながら教えてくれた。建物の玄関を入ると椅子が並んでおり、白蛇様にお参りする方はこちらでお待ちくださいと案内がある。その間に、この神社の由来を見ると、霊験あらたかな阿蘇の大地に、平成13年(2001)6月17日、白蛇様(白寿、白仙、紅龍)が鎮座された。境内には、白蛇様が出現された岩屋があり、この岩屋に参拝すると身が清められ神秘の息吹を感じられるとのこと。神社本殿は平成22年(2010)8月造営、白蛇様にご縁が深い弁財天、宇賀神、八大龍王を主祭神としてお祭りされており、御祈願を始め祭事を執り行います、と続く。
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やがて、奥の部屋のドアが開かれ、祭壇に向かう。神職からご利益を得たい方は財布を三宝の上に置き、その上にお札(コインはふさわしくない)をお納めくださいと案内される。そこで、阿蘇の地からも近い熊本県阿蘇郡小国町出身の細菌学者の北里柴三郎博士のお札(千円札)一枚を載せる。5人がお札を置き終わると神職は箱から白蛇様に出現を願い、財布の上に載せた。白蛇様は、じっと信者に目を向けているようであった。神職は祝詞を上げ始めた。私たちへ幸いとご利益があるようにと述べてくれているらしい。しかし、正直なところ、なんと述べられているのかほとんど聴き取れなかった。近年、私は難聴気味であるのでそのため、聞き取れなかったのかと思ったが、妹たちも良くはわからなかったと神妙な顔をしていた。僧侶があげられるお経(きょう)も解りにくいことが多いが、それ以上だったかもしれない。よくわからないほど有難いのか も?間もなく、年の瀬、今年は巳年。私は年男でもあり、年末ジャンボにはチャンスがあるかもしれない。期待してひたすらご利益を願ってみようか!
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霊験あらたかな白蛇神社へのお参りを終え、いよいよ阿蘇山の中心ともいうべき中岳の火口を目指して阿蘇パノラマラインを上っていく。途中、展望所があり、一休み。眼下には南郷谷一帯の広大な風景が広がっていた。その向こうに南側の外輪山一帯の山並みが屏風のように左右に伸びていた。大きな案内板に貼ってある地図を見ていて何となく変に思ったのは、南北が逆になっており、上が南側、下が北側になっている。もっともここでは、その方が分かりやすく、より実利的なのだろう。そういえば、オーストラリアでは、南北が逆になっている世界地図(Upside Down World Map)というのを見たことがあり、それを思い出した。 

さらに上がっていくと、すぐ左手には烏帽子岳の大きな山が指呼の範囲にあった。すでにこのあたり一帯には木立も少なく、一面が草原である。間もなく、有料道路の料金所があり、千円を支払う。道路の通行料と頂上での駐車料を兼ねているらしい。義弟に言わせるとここには、ロープウェイがあったはずなのに、とぼやく。調べてみると、活火山の頂上付近のロープウェイとしては世界初で1959年に建設されていた。以後、噴火の影響なども受けながらも多くの観光客に喜ばれてきたが2016年の熊本地震で大きく損傷を受けた。それ以外にも噴火の影響を受けるなどで安全上、そして維持管理のむつかしさなどから2018年に再興を断念し、運行が中止されたとのこと。今は、火口付近まで行けるように観光道路が建設されて今日に至っている。 

間もなく山上広場駐車場に到達した。駐車場から火口縁までは、クルマを停めた場所にもよるが数十メートルといったところだろうか。ただし、火口縁までは少し傾斜があるので杖を使う身にはちょっとこたえる。火口縁はもちろんしっかりした柵で囲われているので安心して火口をのぞき込むことができる。スイスアルプスには何十回も行っているし、カナディアン・ロッキーにも数回、アメリカでいえばコロラド州にあるパイクスピーク(4301m)の頂上にも2度行っているが阿蘇の火口縁に立つのは生まれて初めてであった。何度も来ている妹たちにはさほどの感激は無かったかもしれないが、長いことの念願がやっと叶った嬉しさは格別であった。姉がいなかったのはちょっと残念であったが兄妹で写真に納まることができたのは幸いだった。火口壁にはいくつもの地層が重なっており、何万年にもわたって噴火を繰り返してきたことが分かる。火口の遥か下の方に乳緑色に見えるのは火口湖であろうか、そのわきには茶灰色の汚泥がポコポコと坊主地獄状態、地球の息吹が聞こえるようであった。
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火口をのぞき込む観光客はカメラを構えながら、誰もが自然の偉大さに圧倒されているようだった。季節的な理由にもよるのだろうか欧米人らしい姿はあまり見られず、韓国人や東南アジア系の人たちの姿が多かった。東南アジア系はインドネシアやマレーシアであろうか、イスラム系の人がたくさん見られたような気がする。まだ、この時は、中国人らしい姿もたくさん見られたが、11月中旬からは彼らの姿は激減したかもしれない。火口縁では、手すりを背にして写真を撮り合っており、洋の東西を問わず似たような風景が見られる。私たちも近くにいた韓国人の青年にシャッターを押してほしいと頼み、ポーズを作った。デジカメはすぐに写り具合を確認することができるので、シャッターを押してはこれで良いですか?と確認し合うのもよくあること。撮ってもらったあと、今度はこちらから撮りましょうか?と問いかけるとニヤッと笑って、これでやるからいいです、と自分で自分を撮ることもよくある風景。世の中は次第に変わり、便利になっていくものらしい。
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火口近くにはあちらこちらに待避壕が設置してあり、いざという時はここに逃げ込むことになる。周囲には案内を兼ねて警備員の姿があった。最近では、「ここに退避するようなことがありましたか?」と尋ねてみた。「熊本地震の時は自分もそこに入ることを考えたがそれ以外はここに設置されて10数年になるが実際に使われたことはありません。」ということだった。ひと時の休みもなく地球の息吹は聞こえているが、このところは平穏らしい。火口駐車場始め一帯はきれいに舗装されており、車いすの方も楽に見物できるように整備されているしトイレも完備している。しかし、火口縁まではかなり傾斜があり、電動車いすの方にはちょっとハードかもしれない。手動式の方は後ろから押すとか、前から引っ張るなどの介助が必要と思われる。(以下、次号) 

《資料》 
・白蛇神社 阿蘇白水龍神權現について:白蛇神社 案内より 

《写真、上から順に》 
・白蛇神社にて、鳥居の右に白蛇の彫刻が置かれている:2025年10月19日 撮影 
・阿蘇パノラマラインから見た南郷谷一帯:2025年10月19日 筆者撮影 
・阿蘇パノラマライン中腹休憩所の案内図:2025年10月19日 筆者撮影 
・阿蘇山中岳の火口:2025年10月19日 筆者撮影 
・阿蘇中岳火口付近の待避壕:10月19日 筆者撮影