2026.06.08
小野 鎭
一期一会 地球旅 416 ヨーロッパの夏
一期一会・地球旅 416
ヨーロッパの夏
ウィーンでは、さわやかな暑さの中での観光など、いい思い出が多いが、反対に文字通り熱い思いをしたこともある。このことは、次回に回すとして、ヨーロッパの異常な暑さについて、思い出したことも含めて書いてみたい。
近年は、異常高温などがよく報じられ、日本だけでなく、ヨーロッパも異常高温に見舞われたことを聞いたことがあるし、自分でも実際に経験したことがある。日本では、今年、夏ではなく、5月に早くも35℃以上、いわゆる猛暑日が訪れた地域があったことをニュースで聞いた。ロンドンでは、5月に35℃以上の気温があったのは、80年ぶりであるとか、104年ぶりなど、新聞やテレビで報じていた。高緯度地域(アジアでいえば、カムチャツカ半島の南くらいの位置)にある英国では、一般家庭や公共交通機関、学校などではエアコンの普及率は非常に低く、今回の猛暑では鉄道の運休や遅延など、インフラにも大きな混乱が生じたとBBCで報じていた。カシミヤやウールなどのセーターがご自慢の英国では、夏でも薄物の上着などを着て過ごすことが一般的であり、コートを着て市内見学をしたことも記憶にある。多分、旅行者も汗だくでロンドン塔やバッキンガム宮殿の衛兵交代などを見物していることだろう。そういえば、真っ赤なユニホームと真っ黒の深い帽子をかぶっている衛兵であるが、あの帽子は熊の毛皮(ベアスキン)で作られていると聞いている。この暑さの中で頭髪が茹で上がってしまうのではないだろうかと暑さの中で警備をするとか隊列を組んで行進する衛兵へ「暑中見舞い」を贈りたい。
一方、フランスでは記録的な猛暑の際、涼を求める若者や子供たちが路上で消火栓を勝手に開け、巨大な水遊び場(ストリート・プーリング)にしてしまう騒動が毎年のように発生しているとか。大量の水が無駄になるだけでなく、水圧の低下で本来の消火活動に支障が出るなどの深刻な問題となっているという。この問題に対し、フランス政府や各自治体は厳しい対応や対策をとっている。一例を示すと、各地の自治体は、消火栓を不正に開けた者に対して罰金を科すとか、未成年の場合はその親に対して多額の弁償金や修理費用を請求するなどの措置を執っているとのこと。パリ市などでは、危険な消火栓の破壊を防ぐために、あえて公園や広場に安全な「ミストシャワー」や「仮設の水遊び場」を設置して「ガス抜き」を図っているそうだ。 大量の水が一気に放出されると地域の水圧が急激に低下し、万が一の火災時に消火栓が機能しなくなるリスクや、水道管の破損リスクが高まっているという。日本でそのような街中での暑さへの勝手な騒動が起きないことを願うのみである。
ヨーロッパの異常な暑さの直接的な原因は、「ヒートドーム現象」によるものだと聞く。上空に強い高気圧が居座ることで鍋の蓋のように働き、熱い空気が地表近くに閉じ込められ、気温が急上昇し続ける仕組みを指している。ヒートドーム以外にも、ヨーロッパ特有の環境や気候変動がこの猛暑をさらに深刻化させている。主な要因は、いくつかあると説明がある。例えば、近年、気候変動の影響で北極と南の地域の温度差が小さくなり、上空の偏西風(ジェット気流)が弱まり蛇行しやすくなっていること。これにより、特定の地域に高気圧が長く停滞しやすくなっている。 また、偏西風の蛇行によって、サハラ砂漠など北アフリカ方面からの非常に熱く乾燥した空気がヨーロッパに流れ込みやすくなっていることもある。もう一つは、気候の都市化と陸地化であり、ヨーロッパは陸地面積が比較的広く、アスファルトやコンクリートに熱がこもりやすい構造をしていることである。ヨーロッパの家庭における冷房(エアコン)の普及率は非常に低く(約10%程度とされる地域も多い)、厳しい熱波が直撃すると深刻な健康被害(熱中症など)を引き起こしやすい環境にあるという。北アフリカから地中海を渡って南欧に吹いてくる季節風(熱風)をシロッコ(Scirocco)と呼んでいる。ドイツのクルマでこの「シロッコ」と名付けられたものがある。ちょっと有難くない命名?などとは余計なおお節介というべきか。
大雑把にいえば、アルプスの北側のヨーロッパでは、一般住宅はもとより、公共交通機関や学校などでも寒さへの対応=暖房装置は、良く整っており、冬でも屋内ではセーター一枚で過ごしている様子はよく見てきた。しかし、冷房装置ということになるとあまり整っていなかったというのが私の旅行経験から言えることである。夏のヨーロッパは総じて乾燥しており、湿度の高い日本の夏に比べると暑いと言っても、乾いた暑さで屋内や木陰などではさわやかであった。多くの家屋では、窓を開けて風を入れることで夏の暑さをしのいできたのだろうと思う。但し、街中のホテルで窓を開けると車の騒音などに悩まされることも多い。窓からの眺望はちょっと落ちるが、それさえ我慢すれば、むしろ中庭に面した部屋の方が居心地は良かったと思っている。
パリなどの歴史的な大都市では、景観保護の規制、古い建築構造、厳しい行政手続きなどの理由から、一般的な壁掛けエアコンの設置が極めて困難だと聞いてきた。パリで冷房装置の設置が容易ではない主な理由はいくつかある。例えば、 美しい街並みを維持するため、アパルトマンの外壁に室外機を設置することが厳しく制限されている。設置には行政や共同所有者(大家や管理組合)の許可が必要。また、建物自体が歴史的建造物に指定されていることも多く、配管を通すための壁の穴あけなどが法的に禁止されているケースがある。従来は夏の期間が短く、湿度が低いため、窓を開けたり日除け(ヴォレー)を活用したりする文化が根付いており、そもそも建物に冷房を設置する習慣がなかったと言えよう。そのため、最近、パリ市では景観を損なわない冷房対策として、セーヌ川の冷水を利用した「地域冷暖房ネットワーク」などのインフラ整備が進められているとのこと。個人宅でも室外機のいらない移動式エアコンなどが使われるが、構造上どうしても冷却能力が限定されるという。
南欧では、イタリアであれ、南仏、スペイン、ギリシャを問わず、夏の暑さは当然と受け止めて病院や施設見学、そして、市内観光などを楽しんできた。芝生の上にさしかけたパラソルの陰でいただいた食事はこれも素晴らしかったことを憶えている。食事時では、日本のようにテーブルに水が出されることは少なかったので、水をください、と注文することが多かった。これらの地域では、ガスが含まれた水が出されることが多かったので、「ガス抜きの水」を注文することが多かった。そのため、「ガス抜き」という現地での表現を覚えておくとちょっと格好が良かったのも若いころの思い出である。
イタリアと言えば、ナポリの病院での歓迎は、真夏の暑さ以上の熱い歓迎を受けたことも懐かしい思い出である。1977年、南回り便でギリシャのアテネに入り、古代ギリシャの遺跡などを見学した後、パトラスから南イタリアのブリンディシまで夜間のフェリーで移動、ちょっとした地中海クルーズの思い出も懐かしい。ナポリでは、オスペダーレ(ホスピタル)・サントボーノ、次いで、カルダレッリ、モナルディと3つの病院を見学しているが、昼食は、午後1時くらいから始まり、食前酒から前菜、パスタ(プリモピアット)、メイン(セコンドピアット)、サラダ、ドルチェ(デザート)、エスプレッソ、ディジェスティーヴォ(食後酒)と延々2時間を超えていたと思う。カンパニア州病院協会主催のご招待であった。午後の病院見学は満腹でしかも食後酒もあって先生方はほろ酔い気分で多分、あまり頭に入らなかったかもしれない。
そして、この日、夕方、ナポリ市長を表敬訪問した後、ナポリ観光協会主催の夕食会は、多分、サンタ・ルチア海岸の海鮮料理であったと思う。何とも熱いもてなしを受けたことは何十年も経った今でも覚えている。数度の滞在を除いて、多くの場合、ナポリはローマから日帰り観光でポンペイの古代遺跡見学の帰り道で寄ることが多く、ゆっくりこの町を楽しむことは少なかった。それから時を経て、2012年にナポリで3泊、遥か昔、この町の人たちから受けた熱いおもてなしのことを思い出した。(この項は終わり、そして、以下次号)
《資料》
ヨーロッパの異常高温:NHK、ウェザーニュース、BBC、日経新聞、その他の資料から
《写真、上から順に》
・ロンドン・バッキンガム宮殿の衛兵のパレード 2013年 筆者撮影
・パリと近郊で起きた「Street Pooling」:パリ市と近郊27か所で3消火栓が開けられて路上の共同放水がおきた。Le Parisien紙 2019年6月17日
・ナポリのモナルディ病院、窓の開放(矢印):1977年 全社連海外医療事情視察団
・サン・ジャン・キャプ・フェラのグランド・ホテルにて:1997年7月 筆者
・ギリシャ・パトラスからイタリアのブリンディシへのフェリー船上にて:1977年
・ナポリ市での歓迎夕食会:1977年 全社連海外医療事情視察団
・ナポリのサンタ・ルチア海岸にて、ヨットの向こうにベスヴィオ山:2012年筆者撮影