2014.10.14 小野 鎭
小野先生の一期一会地球旅㉖「もう一つの施設職員海外研修団に添乗して」

一期一会 地球旅 26

もう一つの施設職員海外研修団に添乗して (その5) 

うれしいハプニング! 一期一会

昭和57年度(82年)の研修団も15日間であったが、旅程も半ばの土曜日朝、ローマを発ってジュネーヴへ飛んだ。昼前に到着し、そのまま市内見学をすることになっていた。ところが、ジュネーヴへの空路、アルプスの白い山並みが見え、誰言うともなしに市内見学よりもモンブランを見に行きたいという声が決定的になっていった。そこで、事務局(都のご担当が随行)のお二人も了承され、そちらへ変更してほしいということになった。そのために生じる差額は団員負担が条件であったと思う。本来ならば、社に連絡して了承を得て実行すべきであるが市内見学が郊外見学になったということで事後報告することにしてその時は済ませた。今で言えば、受託型企画旅行であり、もし募集型企画旅行であれば、より厳密に全員の了承を書面でいただくなどの業務処理も必要であっただろう。 いずれにしても、現地手配会社にその旨を申し入れてバスとガイドの手配内容も改めてもらい、空港からジュネーヴ市内を通り抜けてモンブラン山ろくのシャモニーへ向かった。シャモニーにはそれまでに数回行っていたので土地勘や現地の様子はよく覚えていたが、急な変更であったので、直前情報を探る余裕はないまま、ぶっつけ本番であった。今回も、現地ガイドと相談の上、モンブラン観光のハイライトの一つであるエギュ・ド・ミディ展望台(3842m)までロープウェイで上ることを予定していた。初冬の午後、快晴に近い青空で雪をかぶったアルプスが次第に近づいてくるにつれてバスの中は一層にぎやかになっていった。やがて、シャモニーの谷間に入っていった。世界的な山岳リゾートで夏は登山やトレッキング、そして観光、冬はスキーでにぎわう町であるが、11月のこの時期は夏と冬の端境期であり、しかも午後であったのでなんとなくひっそりしていた。 何となく静かだな、と内心すこし変に思いながらロープウェイの駅に着いたところほとんど人影もなく、ロープウェイそのものが動いている様子が感じられなかった。 夏のシーズンを終え、あろうことか冬の繁忙期に備えてロープウェイはメインテナンスのため、休業中とのこと。まさに、ショック!以外の何物でもなかった。 ガイドは申し訳なさそうな顔をしていたが、急に予定を変更してこちらへ来た我々の責任でもある。現地手配会社は情報をつかんでいなかったのであろうか、などとぼやいたが今となってはどうしようもない。 40名もいるのだから、駅員に臨時に動かしてほしいと申し入れたが当然通じる話ではなかった。 さらに駅員に、何とか別の方法はないのか?と聞いたところ「ブレバンが動いている」との話であった。 ブレバンとは何のことかわからず、詳しく聞いてみた。駅員は、地図を開いて説明してくれた。町の反対側にル・ブレヴァン展望台(2525m)があり、そこまでロープウェイがある。そちらは稼働しており、午後は逆光になると思うが、モンブラン山塊が目の前に広がるはず。きっと今日は大丈夫だと思う、とのこと。 今でこそ、シャモニーとモンブラン観光はこの地に宿泊したり、ゆっくり過ごすツアーも多いが、当時は、ジュネーヴ市内観光とモンブランを一日で廻るなど欲張ったスケジュールもあり、自分自身シャモニーの町をゆっくり歩いたことは一度もなく、エギュ・ド・ミディ展望台に忙しく行ってきた経験しかなかった。そこで、集められるだけの情報を蓄え、団員に事情を説明してブレヴァン展望台に行くことになった。
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午後の鈍い光を浴びて白く輝くモンブランの雄姿とそれに続く峩々たる山稜とモン・ドーレンなど針峰群の眺めは素晴らしかった。 全員が、歓声を上げ、そして雪の原っぱに仰向けに寝て澄んだ青空を見上げた。凛とした清涼な空気を腹いっぱい吸ったことを思い出す。 帰りのバスの中で、ロジェ・デユプラの「いつかある日、山で死んだら、古い山の友よ、伝えてくれ♪・・・」 学生時代に音楽喫茶で覚えた歌を歌ったところ、車内からは大きな(?)拍手があった。 この時の団員諸氏から言われた言葉がうれしかった。「最初は、とても残念な思いがあったが、あれこれ努力してくれて結果としては、素晴らしい景色を堪能することができた、二度と来ることはできなないかもしれないので、この感動は忘れないであろう。」と喜んでくださった。この時、思ったのが郷里の高等学校の体育館にかかっていた扁額の「一期一会」であった。一生に一度しかないであろう貴重な出会いと機会、旅行はやり直しのきかない一回きりのものである。「どんなときにも最大の努力をすること」と「一期一会の思い」がいつしか自分の座右の銘になっていったような気がする。
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報告書には、都の研修事業担当のI氏が「モンブランは、11月のこの時期は晴天になるのは2・3日とのこと、予定変更は一種の賭けであったが、素晴らしい晴天に恵まれ、モンブランはじめ雪のアルプスの絶景を堪能した。この日ばかりは、研修を忘れて観光気分に浸った。」とある。 また、その後、気づいたことであるが、シャモニーに限らず、スイスアルプスなどの各山岳リゾートは多くの場合、ロープウェイや山岳鉄道、バスなど大小二つ以上の鉄道や道路などの移動手段や観光施設があり、よほどの悪天候などでない限りは全部が休業ということは先ず無かった。 勿論 よく整備された初級から上級までのトレッキング路などのほか、スキー始め各種の設備や施設も豊富に整えられている。山岳リゾートとして流石に世界でもトップクラスであることを感じる。旅行の時期や天候、団体の構成、老若男女がそれぞれに楽しめるようになっており、バリアフリーを含めてとてもよく整備されていることを知るようになった。
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いろいろな思い出のあるこの研修団の添乗経験であるが、最後に二つ書き加えたい。一つは、この時の相棒の添乗員であったS君はその翌年であっただろうか、女性団員の一人と結婚、うれしいハプニングであった。 あれから32年が過ぎるが今も数名の団員諸氏とは年賀状を交換しているし、お茶のひと時を過ごすこともある。 (資料 上から順に) ル・ブレヴァン(Le Brevent)にて 昭和57年度 心身障害者(児)及び老人福祉関係収容施設職員海外派遣研修報告書。 鉄道の車内ではもっぱら研修の中身や旅行の打ち合わせ。