2014.11.18 小野 鎭
小野先生の一期一会地球旅㉛ 「南会津への旅」

一期一会 地球旅 31

南会津への旅

  これまでは専ら海外添乗、それもかなり昔のことを書いてきたが、今回は、つい先日の国内旅行について書いてみたい。   20年近く前からお付き合いくださっているY氏は、さいたま市浦和区にNPO法人を組織され、地域にお住いの障がい者の方々へ様々なサービスを展開しておられる。その中で生産活動やサービス業に従事しているグループがあり、日々の活動を通して社会との接点を保ち、その一方で年に数回近郊あるいは近県へのお出かけや夏の宿泊など楽しいプログラムが設定されている。また、その中の有志とご家族や仲間の皆さんは2008年から1~2年おきに海外旅行へお出かけになっているが、今回はこの秋、2泊3日の国内旅行を考えてほしいと相談をいただいた。偶々、本年3月に奥会津・南会津地方の観光振興促進のための現地視察で得ていた情報をもとにこの地方への旅行を提案したところ、只見町へのプランに興味を示された。   只見町は、福島県の西端に位置して新潟県と境を接している。国内でも有数の豪雪地帯であり、只見川は豊富な水源としても知られている。本年6月には、ユネスコのエコパークとしても登録されて人間と自然環境との調和のとれた関係を築いていこうということで力が入れられている。町の愛称として「自然首都」が掲げられており、今回は、南会津の自然と人々との楽しいふれ合いを期待して秋の紅葉シーズン楽しんでいただくことを願って計画を進めた。   一行は、28名。1種、2種の障がいのある方など19名、この中には車いす使用の方7名も含まれ、これにスタッフなど9名が同行、加えて筆者が添乗した。メンバーの多くは、自家用車やワゴン車でのお出かけは多いが、仲間での鉄道の旅というのは少ないので、今回は会津田島までの往復は鉄道を利用された。それも奮発して東武鉄道のスペーシア(特急)、鬼怒川温泉から先は野岩・会津鉄道で紅葉真っ盛り、豊かな自然と素朴な会津盆地の風景、そして仲間との楽しい語らいに片道3時間はあっという間であった。   宿泊は、只見町にある季の郷(ときのさと)・湯ら里、伊南川(いながわ)をのぞむ段丘にあり、広い敷地は一面の緑、周囲の山々の美しさと静けさが心を休ませてくれる。高床式になっているのは冬の豪雪に備
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えることが第一に考えられているそうで一方では窓からの眺めが素晴らしい。2階部分が平屋建て状態となっており、客室、ロビー、フロント、レストラン、コンベンション・ホール、温泉大浴場、土産物店、多目的トイレなどが全て水平移動で行けることは具合がよかった。勿論、地上部分(1階部分は駐車場や機械室など)とは階段のほかにエレベーターがある。玄関先では、EV(電気自動車)の充電設備が設置されつつあった。車いす使用のお客様対応ではないが洋室もあり、スタッフが一緒に宿泊されて必要な介助をされた。大浴場には、シャワーチェアも置いてあり、今回はグループごとに3~4人ずつ入浴されて介助が必要な方にはスタッフがこれにあたられた。微笑ましいのは、軽度の障がいのある方はできる範囲で重い障がいのある仲間の入浴や食事の支援をしておられたことである。   ホテルの広い敷地の反対側には、深沢温泉「むら湯」がある。鉄分と塩分の濃い温泉だそうで茶色の湯船に浸ると窓の向こうに伊南川の清流と盆地一帯の美しい風景が広がり、まさに一幅の絵画。こちらは、近郷の人たちも日帰り入浴でのんびり夕方のひと時を楽しんでおられる様子がうかがえる。さながら銭湯気分かもしれない。湯ら里には2泊したので、ホテルの大浴場とこのむら湯を交互に楽しまれたメンバーが多かった。こちらでは筆者も少しだけ入浴介助のお手伝いをした。   朝食はホテルのレストランでバイキング式、夕食はコンベンション・ルーム、その名も「ゆきつばき」で会席料理の夕べ、なんと2日目の夜は、メニューには鱧(はも)まで含まれていた。滞在中は細かいところまで心配りをしていただけてとても快適であり、皆さんには好評であった。また、会津田島からは駒止峠を通って54㎞、約1時間かかるが往復の送迎、さらには中日の只見町内での観光と体験プログラムへの送迎も協力してくださり、とてもありがたいことであった。   只見町でのアトラクションは、只見町まちづくり観光協会で手配していただいた。日本有
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数の田子倉ダム、さらに足を伸ばして新潟県との県境に近い六十里越開道記念碑まで行って紅葉を楽しみ、新雪をいただいた 浅草岳(1586m)はじめ只見盆地と一帯を囲む山脈(やまなみ)の雄大な風景に歓声が上がった。その後、只見町でバスを仕立てていただき、これで森林(もり)の分校「ふざわ」を訪れた。ここは、昭和52年(1977年)まで地元小学校の分校であったそうであるが、その後、廃校となり、その建物を改築して宿泊施設兼集会&食堂として使われている。玄関は数段の階段があるが、旧校庭(?)の横にはスロープがあり、建物の妻側(よこ)から車いすも出入りができる。一階には大きな囲炉裏があり、車いすトイレも設けられている。 ここには現地の人々のとてもあたたかな心配りともてなしがあった。餅つき体験では、仲間がそれぞれ
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数回ずつ杵(きね)を振り上げた。車いすのメンバーは、細長い突き棒状の杵で参加した。全員でついたお餅をあんころもちや納豆、けんちん汁などに入れて只見の家庭風料 理とあわせての素晴らしい昼食に舌鼓。クルミを絞った汁をあんころもちにかけるとこれが絶妙の味、おかわりの声も聞こえていた。
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          楽しい昼食の後は、体験プログラムへと続いた。一つは、「勾玉作り」。これは、蝋石(ろうせき)であろうか、一辺が6㎝位の正方形、厚さ7mm位の白くやわらかな石が材料。これにハート形や勾玉など好きな形を描き、紙やすりで削ってかたちを整えていく。次第に形が整ってくると一か所にキリで穴をあけて、さらに水の中でやすりをかけ、乾いた布で磨くと光沢が出てくる。これに紐(ストリング)をつけると出来上がり。作業そのものは、メンバーが日頃やっている生産活動などでも似たようなプログラムがあるかもしれないが、みんな勾玉作りに熱中した。2時間かけて作り上げた自分だけのペンダント。首にかけた誇らしい笑顔が素晴らしかった。   「打ち豆」は軽くゆでた大豆を楕円形の石の上に置き、これを木槌で打って平たく伸ばし
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、乾燥させてみそ汁などに入れて食べる会津の冬の食材だそうである。ザルに入っている緑の豆を一粒ずつ「たたき石」の上に置いてメンバーは掛け声と共に木槌で打つ。2~3回打つと平たくなり、1円玉くらいの大きさにすると一丁上がり。なかなか木槌が定まらない仲間も少しずつ慣れてきて次第に速度が速くなり、結局予定していた時間よりも早く打ち豆を終えた。只見のお母さん方に言わせると。最後は自分たちが仕上げなくてはならないのではないかと想像していたが、こんなに早く終わるとは!とうれしい「予想外」であったらしい。みんなで潰した打ち豆は乾燥させて、後日、只見のお米を添えて、法人へ送っていただいたとのこと。きっと、次の会食が楽しみであろう。   もう一つのアトラクションは、「ブナ林の散策」である。山中には、せせらぎやぬかるみもあり、車いすの方には参加いただけなかったが、スタッフを交えて5名がこれを楽しまれた。町から派遣された現地ガイドの案内で枯葉がいっぱいに積もった初冬のブナ林は森閑としており、キノコがあちこちにあったとか。毒キノコもあり、これは触ると大変。こんな時、地元の人の案内はやはりありがたい。森の中には、木の幹の背丈くらいの高さのところに3本のひっかき傷があり、これはクマの爪痕だとか。冬眠に入る前に腹いっぱいにしようと歩き回っているらしい。森はやはり生きている! こうして
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、楽しいアトラクションは終わり、大歓迎してくださった地元の人たちはまた来てね、といつまでも手を振ってくださっていた。最初は、障がい者の方々への接し方がわからず、不安を抱いておられた現地の方もあったらしい。しかし、何のてらいも気兼ねも感じさせないメンバーの笑顔に、ごく自然に接することができたという声を聞いてうれしかった。   只見での楽しい滞在を終えて、会津田島へ戻った。駅近くにある祇園会館での昼食も好評。郷土の山菜や家庭料理風のバイキング料理に大満足であった。会館は入口にはスロープが設置されており、玄関を入ると多目的トイレもある。障がい者だけでなく、昨今では、車いす使用の高齢のお客様も増えており、会津田島駅と並んでバリアフリー化が進んでいることがうれしい。   今回の旅行では、3月の現地視察でお会いしていた方々から得た情報やその後の打ち合わせで細かい要望に応えていただき、この旅行を準備することができた。只見町のホテルや観光協会が提供してくださったバスはリフト付きではなかったが、車いすや荷物を搬送するためにワゴン車を伴走させてくださったし、祇園会館からも荷物とともに駅まで歩行不自由なメンバーを送っていただいた。また、東武鉄道では座席指定上の特別配慮や各鉄道では乗降車時には於いて多くの支援があった。加えて、旅行の始めから終りまでスタッフ各位の動き振りには改めて敬服の念を抱きながら拝見していた。超高齢社会が急伸する時代にあって、施設や設備面でバリアフリーという観点からは必ずしも十分とは言えないところもあったが、何にも増して地元の人々や関係者の暖かな心配りとおもてなしはその不便さを充分に補っていただけたと思う。お世話になった湯ら里、只見町観光まちづくり協会、只見町、祇園会館、そして只見の皆さんと関係各位に心からお礼を申し上げたい。   (写真 上から順に いずれも2014年11月撮影) 湯ら里にて 田子倉ダムの展望台にて 餅つき2景 私だけのペンダント 打ち豆づくり 只見の皆さんと (2014/11/18) 小野 鎭