2015.05.20 小野 鎭
小野先生の一期一会地球旅56「大失態あれこれ その3」

一期一会 地球旅 56 大失態 その3

大海に浮かぶ小舟のように、 添乗中、うっかり寝入ってしまい、集合時間に遅れてバツの悪い思いをしたことがある。ホテルで昼食後、午後の出発は多分3時頃であったと思うが1時間くらい余裕があったのでちょっと横になっていたところそのまま寝込んでしまい、電話のベルで飛び起きて驚いた。集合時間を過ぎていた。この時は、ロビーで待っていた通訳氏が小野に電話した後、機転を利かせて「緊急連絡が入りその対応に追われているので少々お待ちください」とお客様に伝えてくれており、救われた。以後、その通訳氏には頭が上がらなくなってしまった。30数年前、ストックホルムでの恥ずかしい話。
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さて、うっかり寝込んでしまって起きがちなトラブルの一つに、浴槽のお湯を溢れさせることである。旅の疲れと時差のせいもあって、どちらかと言えば旅行行程の前半が多い。幸い、自分はそこまでの失敗は起こしてはいないが、お客様については数回経験している。その都度、ホテルに詫びて、床を拭いたり、部屋を変えてもらうとか保険で処理してもらうことを含めて前後処理は難事である。漁業関係視察団での出来事。76年9月、ベルギーのブリュッセルで視察を終えて、翌日、バスでフランスのブーローニュ・シュル・メールに向かった。かつては、カレーと並んでドーバー海峡を挟んで連絡船の発着港として殷賑を極め、北フランスの主要な漁港としても栄えている。お昼前には着いたのでホテルで昼食を摂り、幸い全員の部屋がチェックインできた。そこで、午後は、休養をかねて夕食まで自由行動とさせていただいた。三々五々港を見学したり、町を散策したりして夕食の時間になった。
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この時のホテルは町の中心街にあるクラシックな建物で、手動式ドアのあるエレベーターが印象的であった。レストランはすぐ近くの店を予定していた。集合時間になっても、お一人のメンバーが見えず、部屋へ電話しても応答無し。フロントに聞いてみたところ、鍵は無かった。個室使用のお客様であり、グループのメンバーとは少し離れたところの部屋であった。鍵を持ったまま外出されているのか、それとも部屋で熟睡? そこで確かめに行って驚いた。その部屋のドア付近一帯には水が漏れており、次第に廊下の絨毯まで浸み込んでいきつつあった。ノックしても返事が無く、フロントへ戻って合鍵を借りて部屋を開けてみたところ、部屋も浴室も水浸し、ベッドにはその団員氏が仰向けになっていた。一瞬、血の気が失せる思いであった。しかし、よく見るとお客様は高いびき、さながら大海に浮かぶ小舟の上で午睡? 大声で名前を幾度も呼び、体をゆするやっとお目覚め。しかし、朦朧として何のことかわからないような有様。この団員氏は、旅行が始まってから連日ビールはもちろん、ワイン、ウィスキーなどかなりの酒豪であった。団員各氏は気にはしておられたが、面と向かって注意することも出来ず、ご本人はこの日も外出せずに部屋で飲んでおられたらしい。一方で、風呂に入ろうと蛇口をひねったまま、寝込んでしまわれたというのが真相であった。食事は勿論お預け、ありったけのタオル、モップなどを借りて団員総出で洪水の後始末に大変な時間を費やした。やっと酔いがさめたご本人はバツが悪いのか憮然としておられた。このときは、ホテル側から部屋の損傷の原状復帰、客室数室分の営業補償などかなりの金額を請求された。幸い、旅行傷害保険で大部分の金額が補償されたが、団としては、はなはだ後味の悪い思いが残った。それ以後の旅行説明会では、このトラブルが旅行傷害保険をお勧めするときの実例としていつも紹介されていた。 チップで失敗! 海外旅行で気になることの一つにチップがある。グループの場合は、現地手配会社からガイドや貸切バスの運転手、レストラン、ポーターなどチップやポーター料については含まれているかどうか、必要な場合は、目安としての金額なども示されているので分かり易い。しかしながら、レストランなどによっては良い席を確保したり、何か予定外の事態が発生したりしたときは普通以上にチップをはずむことがおおい。しかし、その出し方によっては、気をつけなければならないことがある。増して、個人的な用向きではなく、団全体に関わることが多いので神経を使う。うまく使うことで他のグループよりいい席に着けるとか、眺めが良いこともある。そうすることでお客様には旅の思い出をより豊かで楽しいものにしていただけることが多い。そのような「いい気分」の積み重ねが結果的には、添乗員として気が利いていると評判を得て営業上からも点数を稼いでいったと思う。
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パリには、リドとムーランルージュという世界的に有名なキャバレーがある。パリを訪れるグループでは、ディナーショーを楽しんで、翌日帰国の途に着かれることも多い。筆者の場合、リドが多く、旅行スタート後、前もって電話で予約を入れておき、パリ到着後、最終確認をすることにしていた。この時、肝心なことはシャンゼリゼ大通りにあるリドをできるだけ開演中以外の時間に直接訪れること。受付担当の主任ウェイターに会って人数、メニューと金額、テーブルの配置図と席の割り振りなどを確認し、実際にテーブルまで案内してもらう。そして、納得したうえであらかじめ準備していたチップをさっと渡す。金額は、お客様一人当たり1,000~1,500円相当のフランス・フラン(その後はユーロ)。相手も慣れたもので当日行くとたとえその主任クラスが非番であってもそれなりのメモが付されているらしく、「Merci, Monsieur Ono !」と挨拶し、にこやかにグループを迎えて予定されている席へ案内してくれる。お客様はいい気分でディナーショーを満足されて、翌日は楽しい思い出と共に帰国の途に着かれる。
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ある時、例によって最終確認に行き、席の割り振りを見るとすでにいつものように良いテーブルが確保されている旨、メモされていた。自分の名前を覚えてもらえ、それなりに遇されているのだと少しばかり鼻が高くなった気分であった。そして、チップは当日渡せばいいだろう、と後から考えるといささか生意気な態度になってしまっていた。当日、訪れてみると割り振られていたはずのテーブルとはおよそ、不満足な場所に振り替えられていた。血相を変えて、ウェイターの顔を見やったが時すでに遅し、彼ももちろん顔なじみの筈であったが、知らん顔をされた。 チップの出し方を間違えるととんでもない失敗をすることを改めて知らされたのはこの時であった。
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小生意気に配慮に欠ける態度をとったことでたっぷりお灸をすえられた反省から、次のときはまた愚直に以前のやり方でチップを握らせると、またにこにこしてグループを迎えてくれた。たとえは違うかもしれないが、「郷に入っては郷に従え」をここでも勉強したような気がする。昨年、久しぶりに、個人的ではあったが、リドに行った。すでに昔馴染みのウェイター諸氏の顔を見ることも無かったが、昔の思い出が甦ってきた。 (資料 上から順に) ブーローニュ・シュル・メール (Boulogne sur Mer  70年代後半 資料借用) クラッシックなエレベーター(手で開閉し、階段ホールにあることが多い。 資料借用) リド(パンフレットの表紙) リド(ディナータイムが終わり、ショー開演まで客席では楽しい語らい  資料借用) リドにて (筆者 2014年10月)

                                (2015/05/18)                小 野  鎭