2017.01.11 小野 鎭
一期一会 地球旅141 「地球の歴史を見に行こう グランドキャニオンに遊ぶ(2)」

一期一会 地球旅 141

地球の歴史を見に行こう グランドキャニオンに遊ぶ(2)

グランドキャニオンに一泊あるいはそれ以上滞在する場合、日の出や日の入りを見物するのが大きな楽しみの一つである。ガイドブックにも昼間の雄大な景色を見るだけでなく、特に朝と夕方、刻々と変化する峡谷の岸壁が様々な色に変化していくのをじっくり鑑賞するとさらに印象が強まっていくであろう、と推奨している。ラスベガスなどから日帰りツアーで来て、サウスリムに昼間の数時間滞在してサッと見ていくのに比べるとその感動の大きさがはるかに違ってくる。宿泊する人たちに与えられた特権に違いない。それでも、昔、訪れたころは日の出や日の入りを見物することはあまりなかったが15年前に訪れた時は100名近いメンバー全員で午前4時過ぎに起きてご来光を仰いだことを思い出す。湯澤氏や小林さんはその時の記憶もあって今回はぜひご来光を見に行こう、とみんなに呼びかけられていた。 グランドキャニオン2日目の朝は5時前に起床、前夜ブライト・エンジェルのレストランで夕食をとり、シャトルバスで戻ってロッジに落ちついたのは10時近くであった。それでなくても朝、5時前の起床はさすがに眠い。メンバーは目をこすりながらありったけの衣類を身に着けて駐車場に集まってきた。まだ暗いので足元に注意しながら集ってきたことは言うまでもない。今回の旅行では、ほとんどのところが日本流に言えば乾燥した夏を想定して旅行用品の内、衣類はほとんど夏物持参であったがサウスリム一帯は海抜2100m、朝夕は冷え込むことが多いのでセーターやウィンドブレーカーなども一着お持ちください、と案内してあった。それが役立っていた。ドライバーもまだ眠いのか今一つさえない感じであったが昨夕は早めに着いており、ゆっくり休めたと思う。メンバーがそれぞれGood Morningと声をかけると次第に打ち解けてきた。2日目ともなるとメンバーもコミュニケーションが楽になって来る。 ここグランドキャニオンでは、3泊するので中2日は基本的にはチャーターバスの使用は予定されていなかったが、大西部では特に自由に使える交通手段が確保されていないとおよそ動きが止まってしまうといっても過言ではない。サウスリム内では、シャトルバスがあるので大いに重宝するがそれ以外のツアーや用向きが出てくることもあるのでいざというときの足の確保は必須である。現地手配会社との契約では、2日間はいざというときはバスが使えるようにしておいてほしいという特約を付してあった。フェニックスやラスベガス迄は数百キロ離れており、前後の片道移動だけで貸切バスを返し、又来させるというのは却って手間であり、経費的にもかなりの金額がかかることになる。ドライバーを2日間滞在させてバスを確保しておくことも勿論余分な経費が掛かるが保険と同様いざというときに使えるということを考えるとそれも一つの備えである。 間もなく、全員がそろいメイサーポイントの駐車場まで数分ほどドライブ。日の出前であたりは漆黒というほどではないがまだ暗い。所々にある街灯が鈍く辺りを照らしているだけで周りの木立はまだ眠っていた。動物たちの姿も見えなかった。駐車場でバスを降り、ドライバーにはこれから1時間余り過ごしてくるのでその間、もう一眠りして良いよ、というとニヤッと白い歯を見せて笑っていた。駐車場にはすでに幾台かのバスもあったし、たくさんのクルマが泊まっていた。かなりの人がご来光を仰ぎに来ているらしい。展望台までの遊歩道を歩く。まだ暗いが足元は白く平らなコンクリートで幅3mほどであろうか、ゆっくりした傾斜があるが階段もなく、杖歩行の人はもちろん、車いすの人たちも動きやすい。展望台一帯にはすでにかなりの人が集まっているとみえ、岬のように張り出した突端部分や歩道一帯に座ったり、立っていたり、防護柵によりかかていたり、数か所ある階段に腰かけている人などもあった。 高原の早朝、身震いしたくなるほど足元から冷気が上がってくる。思わず首筋にハンカチをまいたり、帽子を深くかぶったりして居ずまいを正す。
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東の方を見ると特徴あるヴィシュヌ神殿と名付けられた岩峰がくっきり浮かび、その両側にゆるやかな尾根が続いていて中ほどに黄色の半円形の明るい色が見えていた。そしてその半円形の上は茜色からこげ茶そして、黒へと替わるグラデーションが広がっていた。空を見上げるとはるか高くに一点だけ瞬いている。明けの明星というのであろうか。日の出を待つ人の数はさらに増えていったが、ここではみんな静かである。昼間であればこれだけの人がいるとかなりざわつくと思うが、ここではみんなひっそりしている。ある人はたたずみ、あるグループは肩を寄せ合って目をつぶっている。階段に腰かけている人たちは小さな声で何やら喋っている様子。それぞれが大峡谷の上に立ち、まだ暗い谷底を眺め、少しずつ明るくなっていく静謐ともいえる風景の中で大自然のシンフォニーの開演を待っている感じであった。F.グロフェは、交響組曲「Grand Canyon」でこのような風景を見ながら第1幕Sunriseを作曲したのであろうか。
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この日の日の出は午前6時13分、そして日の入りは18時32分とロッジのフロントで案内されていたと思う。ここではFind your Parkという案内が年に数回発行されているがページを開くとすぐにThe Sun and Moonとあり、毎月の月初めと月中の日の出と日の入り、満月と月の出の時間が紹介されている。そして、訪れる日ごとにビジターセンターや宿泊施設でもその前後の時間について案内が得られると紹介されている。
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昨今では日本でも登山が盛んになってきているので山小屋や観光事務所、宿泊施設などでも案内されているがグランドキャニオンなどではより詳しい様々な情報がより分かりやすく紹介されているようである。もっとも最近ではネットで簡単にわかるようになってきているのでより多くの人がたやすくその時間などを知ることができるようになってきている。後は、当日がいい天気であるようにと祈るのみである。因みに、同じ時期の富士山の日の出は5:20、日の入りは17:57とある。緯度的にはあまり変わらないが1時間位違うのは、アメリカではこの時期はサマータイムであり1時間進んでいるのでそれを考えるとそうなのかな、と思ったものである。
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そんな細かいことまで説明はしなかったが間もなく日の出が近づき、少しずつ人々が動き始めた。カメラを覗いたり、Vサインを出して写真を撮りあったりしていた。近くの岩肌が少しずつ見え始め、谷底までは数百メートルあり、はるか遠くの山並みの中ほどに黄色の半円形に光の広がり、紅蓮の炎が大地を覆っているようであった。
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大自然の造形美はさらに動き始めて、金色の広がりがさらに大きく、そして強さを加えていった。やがて目を開けていられないほどの眩しさの中にこの日の太陽が昇ってきた。1年365日、毎日繰り返されている日の出であるがこの日、ここに来ていた人たちにとっては特別の日の出、ご来光であろう。思わず涙が流れてくるような感動を覚えることさえある。日の出ともに期せずして大きな歓声が上がった。そして、ある人は両手を挙げて万歳していたし、ある人は祈りを捧げ、ある人は黙祷していた。 様々な思いを胸にこの日の日の出に特別な感情を抱いたと思うが多分誰しもが満ち足りた思いを味わっていたと思う。周りを見渡すと、典型的なアメリカ人の顔もあれば、アフリカ系アメリカ人、スパニッシュ系アメリカ人、そして、我々日本人の他にも、中国人と思しきグループ、韓国語、スペイン語、フランス語、イタリア語、など様々な顔とことばが飛び交っていた。
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そして、誰しもが太陽に向かって感謝しているような感じであった。このように民族、国籍、ことばや宗教、文化や習慣は違ってもここに集まっている人たちが平和と幸福をしみじみと感じているであろう様子が窺えたこの一時間余りであった。ご来光を仰ぐというのは単に日の出を見るというよりは幸福と満足感に浸れる素晴らしいひとときであることを改めて感じた時間であった。次第に遠くの岩峰が姿を見せ始め、岸壁のあちこちが朝の陽を受けて様々な色を見せ始めていた。(以下、次号とさせていただきます) (資料 上から順に、写真は2015年9月撮影) 明けの明星が右上に見えていました。 グランドキャニオン国立公園 Find your Park の表紙 日の出を待つ人たち 紅蓮の炎が大地を覆った! 左端がヴィシュヌの神殿と呼ばれる岩峰 2015年9月19日のご来光 満ち足りた顔がありました。 (2017/1/9) 小 野  鎭