2022.04.25 小野 鎭
一期一会 地球旅 218 パールロードから南イタリアを巡る旅(4)

一期一会 地球旅 【218】 パールロードから南イタリアを巡る旅(4)

 
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スプリトでの宿泊は新市街地の海辺に面したモダンなホテル。航空会社のクルーも見かけた。観光客だけでなく、ビジネス関係者も多いらしい。窓から見ると中庭にプールもあり、その向こうには午後の眩しいひざしを映す青い海。本音を言えば、午後は早めに到着して連泊してゆっくりできたのに、と今振り返ってみると少々急ぎ過ぎの旅行であったことが残念な気もする。夕食は旧市街まで出かけて宮殿の外側にあるレストランでのシーフード。網焼きの魚を一尾ずつ取ってこれにレモンを絞って振りかけて食べたと記憶しているが醤油があればもっと美味であったかもしれない。数日前、グループのリーダーである福岡市在住のY君と電話で話していたところ、あの時の魚は「スズキ」であったという。彼の記憶力は依然として冴えており、当時を懐かしく様々な旅の思い出話が尽きない。彼が毎回の旅行の企画者で筆者が旅行の実務を担当してきた。彼は無類のビデオ好き、旅行中に撮った動画を送ってくれるのでこれをダビングしてメンバーに送るのが習わし。旅行終了後の楽しみをもう一つ増やしてくれていた。
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翌日は雨模様であった。少し蒸し暑さも覚えたが旧市街入口にある広いバス駐車場で指定のガイドと待ち合わせ。ここでも英語のガイドであった。2時間余りかけてディオクレティアヌス皇帝の宮殿と旧市街の見学は予想以上に興味深かった。1700年前に建てられた宮殿跡が今も息づいていることに驚き、というのが正直な感想。皇帝は、在位紀元284~305年、日本では言うところの古墳時代であろうか。北アフリカから中東、ヨーロッパは英国のスコットランド付近までを版図としていたローマ帝国は、大きく揺らいでいた。皇帝が就任しては暗殺され、財政が悪化し、他民族の侵入にも脅かされていた。この混乱を抑えたのがディオクレティアヌス帝である。彼は、税制を改め、兵力を増強し、皇帝の権力を強化した。293年には、帝国を四分割して治める四分統治を開始する。新たな秩序の下で帝国は安定を取り戻していった。(この項、NHK世界遺産100のNo.3ローマの拡大と滅亡を引用)。彼は、20年間の統治を終え、公約通り55歳で退位し、出身地のダルマチアのサロナに近いスポルト(現在のスピリト)に余生を送るための宮殿を建設し、ここで過ごした。
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彼の死後、宮殿は廃墟と化していたが、数百年を経てそこに移り住んだ異民族たちが宮殿のみは当時のまま残し、その上に建物を増築してった。長い年月の中で増改築が繰り返されて今のかたちになった。廃墟同然の宮殿ではあったが、基礎部分などは要塞のように堅牢な造りとなっていた防御力を活かし、そのまま居ついていった住民たちは、時代ごとに増改築を繰り返していったので様々な建築様式が混在する空間となっている。キリスト教を弾圧した皇帝は彼自身を神格化して造ったジュピター祀る神殿して建てたものが後に洗礼室として使用され、さらに鐘楼も建てられるなどキリスト教関係の建物が増やされていったのは皮肉な時代の変化というべきであろうか。地下部分は、建設当時の石壁や基礎部分などが残されており、一角にはかつての主であった元皇帝の胸像が置かれている。
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現在、宮殿内にはかつての壁部分を活かしながら地上部分などは商店やカフェなど、2階部分から上はオフィスや住居などして使われている。遺跡保存のための規則などに従って建物は増改築されながら、内部は現代風に住みやすくする一方、基礎部分などは建設当時の保存状態もよく守られている。1979年に世界遺産として登録されているが、それよりも以前から住み着いている住民は私有財産として所有権や使用権が担保されているのだろうか。文化財として今もこの町が息づいていることが興味深い。先頃、NHKのBS放送でこの町を特集していたが、200年以上前の先祖の頃から宮殿内に住んでいる建築家であって建築学の教授である女性が紹介されていた。1700年以上前に建てられた宮殿であってもそこに人々が住み続けることで今も崩壊することなく、建物は生き続いていくのです、と言っていた彼女の言葉は印象的であった。
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見学中に訪れた宮殿中央部分である円形の広間(Vestibuli)では、伝統の男声合唱クラッパ(Klapa)の歌声が響き、しばし旅の疲れをいやしてくれた。その時、土産として買ってきたCDを聞きながらこの項を書いている。 (以下、次号) 写真&資料 (上から順に、ことわりのないものは筆者撮影) スプリットでのホテル (Radisson Blu Sprit Spa の資料より) ディオクレティアヌス皇帝の宮殿(下)と現在の建物群(上)(Reddit 資料借用) 宮殿内の中央広間 Peristyle (2012年9月13日 撮影) ジュピター神殿(右側)に隣接した建物(左側)には、神殿の屋根の部分が そのまま食い込んだ形で建てられている。(2012年9月13日撮影) 男声合唱団 Klapa Vestibuli(同上) クラッパ(Klapa)のYoutube(例)