2024.11.11
小野 鎭
一期一会 地球旅 336 ニュージーランドの思い出(5)クライストチャーチから4 ダニーデンにて
一期一会・地球旅 336
ニュージーランドの思い出(5)クライストチャーチから④
ダニーデンにて
ダニーデンは1861年に近くで金脈が発見されて以来ゴールドラッシュが起きて町の人口は急増し、産業物流拠点として栄えたがゴールドラッシュそのものは10年ほどで終焉するも経済的な繁栄は続き、市内にはビクトリア様式やエドワード様式などの建物が建設され、往時の様子は今も市内各所で見ることができる。NHKのBS放送で報じられた「世界ふれあい街歩き:スコットランド移民の理想郷 ダニーデン」では、この町を次のように紹介している。「ニュージーランド南島のダニーデンは、19世紀にスコットランドからわたってきた移民が建設した街。今も街中にはバグパイプの音色が流れ、朝食には麦のおかゆポリッジを食べ、開拓の歴史が反映した独自のタータンチェックを誇りにするなど祖国の伝統と生活スタイルを大切にする人々と出会う。街でもう一つの自慢は世界一急な坂道、まるでジャンプ台のような急坂、息を切らしながら駆け上がったり、家族の思い出を作る人々と出会う」とある。
ニュージーランドのHighway Guideを見ると、さらにスコットランドを髣髴とさせる説明がある。この地域では、季節の催しなどではスコットランドの郷土料理である「ハッギス」(茹でた羊の内臓と肉のミンチに玉ねぎやオートミールなどを合わせて羊の胃袋に詰めた料理)を食べる習慣があり、伝統的な食べ方としてはウィスキーをかけて食べることも行われているとのこと。私も、かつてエディンバラかどこかでこのハッギスを食べたことがあるが、このいささか不思議な味にご案内した団員各氏とお互い顔を見合わせたことを思い出す。
ワナカから40分くらい飛んだだろうか、小型のプロペラ機は有視界飛行であったので眼下には茶色の荒地やたくさんの羊が草を食んでいる牧場、濃緑の森林などが続いていた。やがて、市街地が広がり、間もなく着陸した。予め、準備されていた貸切バスで街へ向かった。バスのドライバーがガイドを兼務、運転席のすぐ後ろに座って彼の説明を皆さんに伝えた。空港の周りと言い、街までの景観と言い、自分が幾度か訪れたスコットランドの風景とよく似ていた。丈の低い草が一面を覆っている丘陵地は雨に濡れて羊が草を食んでいたし、少しずつ見えてきた住宅街も灰色か茶色のレンガ造りで白い漆喰が四角く塗ってあることにも違和感を覚えなかった。
最初に訪れたのがオタゴ大学であった。国立の総合大学で1869年に創立されたニュージーランド最古の大学だとか。世界の大学ランキングでは常に高い評価を得ており、人口13万人のダニーデンであるが、大学の学生数が2万人あるという。世界中から来た留学生が学んでおり、日本からの留学生もいるとのこと。クライストチャーチ病院でも聞いたがこのオタゴ大学がこの国の南島では唯一、医学系学科を有する教育機関として医学、歯学、理学療法学を学ぶ学生が多いとのことであった。クライストチャーチ病院で会ったドクター達にはこの大学出身者が多かったかもしれない。
小雨が降り続いて晩秋を思わせる寒さであったが、ドライバーが次に連れて行ってくれたのは、世界一急な坂道、Baldwin Streetであった。バスではのぼることができないので、坂のふもと付近に停車した。そこから坂道を見上げると恐ろしいほどの勾配であった。坂道の両側には住宅があり、この坂道を毎日上ったり、下ったりしているのだろうか。考えただけでもかなりの運動量であり、冬、雪が降ったときはそれ自体ジャンプ台になるのでは?などと思ったりした。その後、ギネスブックに世界一急な街路としても登録されていたという。時間の都合もあり、バスから降りて歩いてみることはしなかった。もちろん、バスでは当然上がれない。
その後、市の中心部、八角形の「オクタゴン広場」で解散、商店街には、パブやレストラン、カフェ、土産物店などがあり、各自、お昼を召し上がっていただき、街を散策するなどしてこの場所に指定時間までに戻っていただくように、そして、くれぐれも事故などに遭わないようにと念を押した。携帯電話などはまだ無く、もし、万一、迷ったり、事故に遭われたりすると連絡の取りようもない。この町での宿泊ではないのでホテルなど落ち着く場所もなく、添乗員としてはもっとも神経を使う時間でもあった。とは言いながら、このようなフリータイムで街歩きを楽しんでいただき、異国情緒を味わっていただきたい。事実、このような旅の一コマ一コマが強く思い出に残ったと好評でもあった。
自分は、というと雨に濡れたことで寒さも覚えていたので大枚をはたいてセム皮(シープスキン=羊の皮)のジャンパーを買った。肌触りも良く、軽くて丈夫そうであり、かなりの値段であったが、自分としては、地球の一番南側まで来たことになるいい思い出にもなると思って買ったのであった。多分、20年以上、着ていたと思うが今では残念ながらどこに行ったのか影も形もない。サイズが合わなくなったせいかもしれない。
予想以上に好評だったダニーデンへのツアーであり、皆さんにはとても喜ばれた。3機のセスナ機に分乗しての空の旅はスリルもあったが、3人のパイロットにはとにかく安全第一に飛んでください、と幾度も念を押したことを今も忘れない。(ダニーデンの項は終わり、以下次号)
《資料》
ダニーデン : 100% Pure New Zealand & Wikipedia
世界ふれあい街歩き スコットランド移民の理想郷 ダニーデン : NHK BS放送
オタゴ大学 : University of Otago資料より
《写真、上から順に》
・ハッギス : Britannica 資料より
・オタゴ大学 :University of Otago資料より
・世界一急こう配の坂道 – Baldwin Street, N.Z. : CNN資料より
・オクタゴン広場(The Octagon) : 英語版 Wikipediaより
・ダニーデン・ツアー一行 後列右3人がパイロット、前列右から2番目が筆者 1987年2月