2015.01.07 小野 鎭
小野先生の一期一会地球旅㊲「海外医療事情視察団に添乗して(その2)」

一期一会 地球旅 37

全社連 海外医療事情視察団 その2 より専門的に、より幅広く

  航空会社や手配会社(Land Operator)にはグループ名を横文 で表記して業務を依頼することが一般的である。社では医療関係の視察団をいくつか頂戴していたので、わかりやすくするためにも自治体病院関係の視察団をMeiji Hospital Tour、社会保険病院関係のそれをMeiji Doctor Tourと付けさせていただいていた。次第に数が増えてくると、これにEurope あるいは RTW(Round the world)を付記して区分していた。回を重ねるごとにこれらの名前は手配会社間ではよく覚えていただけるようになっていった。   1971年のDoctor Tourは初の仕事であったが幸い好評をいただき、旅行終了後、間もなくして山口寛人氏から来年のことで相談したいと連絡をいただいた。その頃には、社保中の院長職は退かれて全社連の常務職に専念しておられた。旅行の話では興が乗ると延々と続くので、役員室では不都合ゆえ、自宅に来てほしいということで大宮(現さいたま市大宮区)まで週末にお邪魔することもあった。医療関係だけでなく、各国の社会事情、文化・歴史・地理など多岐にわたって話題が広まり、その話題についていくためには当方もそれなりの勉強をしておかなくては付いていけない。視察関係の旅行計画を立案するときは、専門分野について情報を収集することと併せてそれなりの勉強をしなければならないことは当然として、実際に添乗するときには、幅広く雑学が必要であることを学んだのもこのころからであった。
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次第に主要テーマは、地域医療、医療施設の管理運営、治療計画などが強調されるようになっていった。さらに各国の首都圏などに加えて2番目あるいは医療先進地域に目を向けることも必要であった。法人側あるいは病院側の都合もあったと思われるが時期は、6月を主とするようにということであった。これは、むしろ好都合であった。 欧米では、休暇シーズンが長く、7~8月は視察が難しいことが多い。また、秋は日本からの視察団が多くて視察希望先への依頼も好ましい状態ではなくなってきていた。視察先への依頼は、確たる紹介者や関係機関を介してこれを行うこと、視察希望の理由や目的を明確に述べること、相手方の迷惑にならないように礼を尽くすこと、なども大切であった。このような経過から、主要国の首都圏など以外にも、たとえば、英国各地やドイツ/フランスの地方都市、米国やカナダでは、ニューヨークやシカゴ以外にもボストン、中西部各地、南部や南西部、太平洋岸など幅広く目的地を選ぶようになっていった。英語圏以外であっても英語での説明であれば自ら通訳することが多くなっていたし、長距離バス移動などの場合も普通はThrough Escortとして現地ガイドを数日間雇用してバスに乗ってもらうことが多かったが、それは雇用せず、筆者自ら案内をすることが多くなっていった。
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  80年代になると視察テーマは一層現実的なものとなり、高騰する医療費をどうやって抑制するのか、医療施設の品質管理、プライマリー・ナーシング、プライマリー・ケア、DRG (Diagnosis Related Groups=医療費算出のための分析・分類疾病群)、Medicare、在宅看護などが主要テーマとなっていった。これらについて学ぶために、英国のKings Fund CentreやシカゴのJCAH(Joint Commission on Accreditation of Hospitals=病院品質評価合同委員会)はたびたび訪れた。この時代、医療費総額の対GDP比は米国では、10%を超えており、日本は5%強であったが、2012年では、それぞれ約17%、11%と大きな数字になっている。日本でも85年に医療機能評価機構という組織が生まれている。余談であるが、先だって小手術を受けて2泊3日ほど入院したが、その時は、個別の医療費明細ではなく、DPC(Diagnosis Procedure Combination=診断群分類)による包括金額であった。このようなテーマの下に保健医療機関を訪問すると共に、各国の数多くの医療施設等を訪問した。病院建築そのものに関する専門視察のため建築家などから成る視察団も含めると、おそらく数百か所は訪れている。 その中には、世界的に名前の通った施設もあり、数回訪れたところもある。   アメリカでは、いろいろな説明をするときに数量やランク付けで紹介することが多いが、U.S. News and World Reportでは、Top 10 Hospitals in the United Statesなどとして米国の医療施設を紹介している。 ガンの治療、外科(主として手術か?)、リハビリテーションなど16の科目などにおいて優秀施設を紹介している。総合点では、1位がJohn’s Hopkins Hospital (ボルチモア)、次いで、Massachusetts General (ボストン)、Mayo Clinic (ミネソタ州ロチェスター)・・・と続き、10位にピッツバーグ大学医療センターとある。10位までのうち、6か所を訪問している。ほかにも、有名施設はたくさん訪問しているがいずれの場合も経営形態は日本とは違っていた。MBA(経営修士号)であるとか経済学や法律の学位を持つ経営の専門家がトップに居て、医療部門の管理者は医師が当然として、看護部門は看護学の学位(Ph.Dなど)に加えてMBAの資格を持つ人が多く、加えて、それぞれの部門は並列していることも興味深かった。また、医師によっては、独自にFamily Practitioner (家庭医)などとして独自に診療事務所を持ち、医療機関と契約をして、その病院で手術をしたり、治療をするなど医療機関の職員ではないことも特徴があった。
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  地域医療計画の充実ということも関心が高かった。首都圏や関西圏など大都市圏には多くの医療施設があるが過疎化が進行する地域において医師を確保し、医療施設の適正配置と医療の質を維持することは大変重要であり、特に当時の社会保険病院の大きな役割でもあったと思われる。参加者各位にとってきわめて関心の深いテーマであった。そのような観点からも地方分権の色彩が強いドイツやスイス各地、中部イングランドやスコットランド、アメリカやカナダの各州を訪れることは興味深いことであった。看護では、Primary Nursing(看護部門が入院から退院まで全体を担当する方法)やClinical Pathway(臨床看護プロセス工程)といったようなテーマが多くなっていった。より質の高い看護サービスを行うためには、ということで平成になってからは、独自に看護視察団が編成されるようになった。このことについては、別に紹介させていただきたい。               今日、超高齢社会が急伸する時代にあって、高齢者医療と医療費総額が年ごとに増加の一途をたどり、年々その深刻さを増している。
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70~90年代に各国で見ていた様々な取り組みが今では日本の医療の仕組みの中に取り入れられているところもあるし、後期高齢者といわれる年齢区分に近づく身としては気になることばかりである。とは言え、これまでは海外から「良いとこ取り」でたくさんのことを視察し、そこからヒントを得て日本流に様々なサービスや仕組みが考案されてきたが、そのような先進事例だけでなく、様々な難問を解決するための試行錯誤を繰り返しながらも日本独自で切り開いていかなければなるまい。一方では、米国における高騰する医療費と依然として全国で3~4千万人もの無被保険者があるというこの国の大きな社会問題はこれからどこへ向かっていくのであろうか? 70年代から30年以上も欧米先進国の医療や福祉を見てきただけにとても気になっている。   資料(上から順に) 海外医療事情視察団 1971年 (この添乗から32年間ご贔屓いただけるようになった。) ジョン・ラドクリフ病院(英国 オックスフォード大学関連施設) 1984年 コロンバス病院 (シカゴ) 医療施設品質管理について講義 1985年 デューク大学病院 (北カロライナ州 ローリー)  1980年 以後、3回訪問 ジョンズ・ホプキンス病院(ボルチモア) 見学許可カードのストリング添付 2002年 アドラーガルテン・ナーシング・ホーム(スイス・ヴィンターツール) 1978年   (2015年1月6日) 小野 鎭