2015.09.09 小野 鎭
小野先生の一期一会地球旅72「ゆきわりそう・カナディアンロッキーの旅」

一期一会 地球旅 72

ゆきわりそう・カナディアンロッキーの旅

2年続けてオーストラリアへの旅行を実施されたが、その翌年はカナディアンロッキーに行こうという話が持ち上がった。大平原から雄大な山岳風景、そしてカナダの障害者福祉について視察しようという計画を立てることになった。最初のころは随分苦労も多かったが、回を重ねるごとに航空会社への注文や交渉、ホテルや貸切バスなど旅行手配会社(Land  Operator)を通じて特別配慮を加えることについても手慣れてきたし、実際に探せば徐々に見つかることもわかってきた。多くの国の政府観光局も情報を求めるうえで重宝であったし、協力してもらえて有難い存在であった。次第に「障害者旅行」を作る要領を覚えていった。ゆきわりそうで考えられる旅行は、いつの場合も観光だけでなく、何らかの催しを行うとか、障害者福祉について視察すること、現地関係者との交流などが伴う、むしろそれが主であり、それに観光が伴うという傾向が強かったので、20年以上関わってきた視察や研修旅行で経験してきた様々なテクニックが役に立った。私は、毎回行き先やテーマが替わるごとに新たな意欲に燃えて様々な挑戦を試みた。 カナディアンロッキーに行こうというアイデアがどこから出てきたのかは今となっては定かではないが、興味深い旅行先であった。カナダ西部、アルバータ州とブリティッシュ・コロンビア(BC)州にまたがっている大山脈で3000mを超える山並みが南北に連なり、氷河と美しい湖水、緑の谷間と激流や緩やかな流れる大自然が広がり、高山植物や野生動物を見かけることも多い。あちこちに素晴らしい山岳リゾートが点在しており、夏の登山やウィンタースポーツ、そして一年を通じて世界中からの観光客でにぎわっている。カナダは幾度も訪れていたが主としてトロントやバンクーバーなどでの視察や研修が多く、バンフやジャスパーは数回それもほんの「さわり」だけで、じっくり訪れたことは無かった。
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そこで、カナダ政府観光局を訪ねてアルバータ州政府観光局を紹介してもらい、相談することとした。早速、依頼文を出したところ、同州のVisits & Hospitality のDirector さしずめ訪問親善担当部長と訳せばいいであろうか、Ms. Laverna Sallomが対応してくれるとのうれしい返事をいただいた。予想される人数構成、障害者福祉関係視察と観光などの希望を述べたところ、素晴らしいプランを提示していただいた。当時は、メールやインターネットはまだ無いので最初は航空便、その後はもっぱらFAXが有力な通信手段となっていった。移動手段は。リフト付き貸切バス、前半の宿泊地は観光客が溢れるバンフではなく、カナナスキスが提案された。カルガリーで行われた冬季オリンピックのスキー会場の一つとなった場所でもあり、一帯は、同名の州立公園として素晴らしい大自然が広がっている。
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バンフまでは、3~40分の距離であり、ジャスパーまでアイスフィールド・パークウェイというカナディアンロッキーでも代表的なドライブウェイを遊覧してジャスパーに至るプランである。最終地はアルバータ州都エドモントンであるが、その前にキャンプ ヘホハと名付けられたアルバータ州の障害者団体が運営する非営利のリゾート施設があり、そこに宿泊することが提案されていた。エドモントンでは障害者施設であるグループホームや作業所、州議会の障害者福祉所管の議員にも表敬訪問することが計画されていた。 姥山代表とも協議して、この提案を全面的に受けることにして旅行準備を進めていった。
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結果的には、東京~カルガリーはカナディアン航空で飛んだ。そこからカナナスキスへ直行した。 美しい森が広がり、その向こうには雄大な山並みが南北に伸びていた。カナナスキス・インは車いすのお客様も使いやすい部屋が数室あり好評であった。この場所はその後カナナスキス・サミットが開かれるなど世界政治の場所としても知られるようになった。ここでは、バンフ遊覧を楽しんだほかにWilliam Watson Lodgeへ足を伸ばしてバーベキューを楽しみ森の中へ散歩をして新鮮なオゾンを胸いっぱい吸った。カナダ障害者団体が経営するロッジで、Accessible Lodge22ユニットほか森を抜けて湿原や湖水への散歩道は車いすも通れるような配慮もあったし、点字も付されていた。この時、案内してくれたロッジのマネジャーである青年から手を引いて欲しいとの申し出があった。その時に気付いたことであったが弱視であろうか、訪問者を案内しながら急ぎ足で歩くときは手を引いて欲しいということらしい。アルバータ州立大学の林産学部を出た修士でもあった。
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秋のカナディアンロッキーはすでに紅葉ならぬ黄葉真っ盛りで済んだ青空に映える白雪を抱く山並み、そこにかかる氷河とエメラルド色の湖水群はまさにため息が出る美しさであった。 その後、ジャスパーに一泊した。15年前、父の急逝をしらされた場所でもあり、ここを訪れる度にそのことを思い出す。翌日はキャンプ ヘホハであった。 この変わった名前の施設はアルバータ州の障害者団体が経営する非営利のレクリェーション施設であり、重度の肢体不自由の人や知的障害のある人たちが使いやすいように様々な配慮が為されていた。 湖水にはボートもあった。冬は多分アイススケートのリンクとしてもにぎわうのかもしれない。William Watson LodgeやCamp He Ho Haなど、羨ましい限りであった。わが国にも国立青少年センターなどの施設があるが多くは研修や訓練を目的にしたものが多く、障がい者を対象とするリゾートやレクリェーション施設は法人が独自に設置しているところはあるが、多くの人々を対象とする施設はあまりないような気がする。Camp He Ho Haの語源は、Camp Health Hope and Happinessである。 翌日、州都エドモントンに向かい、アルバータ州議事堂を訪れ、州議会の障がい者部会などに関わる議員を表敬訪問し、その後、障がい者のグループホームや作業所などを見学した。エドモントンでは、さらにいくつか興味深い経験があった。そのひとつが、ホテルのバスルームのドアが無かったことである。Chateau Lacombに泊まった。この町でもトップクラスのホテルの一つであった。ところが、チェックインしてしばらくするとお客様から連絡があり、バスルームのドアが無いとのこと。驚いて駆けつけてみると、なるほどドアが外されていた。フロントに確認してみると、車いす利用者は8名とあるが、車いす対応の部屋が足りないので、数室は、我々が到着する前に車いすが出入りしやすいようにドアを外しておいた、とのことであった。何とも憎い配慮であった。
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バスルームのドアが無いことは同室者同士ではプライバシーの観点から少々憚られるが、介助者はスタッフや家族であったので結果的にはこの心づかいのお蔭で部屋が使いやすかったと聞いた。最後の一日は市内でも最大規模の屋内ショッピングモールへ出かけた。厳冬期の気温は氷点下20℃近くまで下がることもあり、カナダの大きな都市では地下街や屋内の施設が充実しているが、エドモントンのこのモールも巨大であった。そして、屋内遊園施設まで併設されている。晴天続きの旅行であったが、帰国前日のこの日は、強い雨でこの屋内施設でのひとときはまさにラッキーであった。 こうしてカナダの旅行は予想していた以上に喜ばれて大成功であった。最大の要因アルバータ州政府の訪問親善担当部長が自ら丁寧に考えてくれたプランであったこと、そしてもう一つは、カナディアンロッキー滞在中は連日素晴らしい晴天であったこと、まさに「カナダ晴れ」の毎日で紅葉ならぬ黄葉が青い空、白銀を抱く山並みに映えてまさに絶景の毎日を堪能することができた。 帰国した翌月、アルバータ州から友好親善使節団が来日、その一員として、L.サローム部長も見えており、挨拶に行った。彼女は、内部障害と手足も不自由で杖歩行している50歳代くらいの女性であることを初めて知った。親身になって相談に乗ってくれて、素晴らしいアイデアを提供していただいたし、幾度も手紙やFAXを送ってもらったことに対して改めて深く感謝した。あの手でタイプを打つには普通の人よりもかなりの時間を要したことであろう。もし、この時に会わなかったら、結局彼女のことを深く知らないままに過ぎてしまったに違いない。いまも忘れられない恩人の一人である。 (注) ここに紹介した2か所の施設は今も使われており、当時よりさらに充実しているように見受ける。 William Watson Lodge  http://www.williamwatsonlodgesociety.com/about.htm *  You Tubeを開くと、車いすの青年が案内してくれていた。 https://www.youtube.com/watch?v=HDDuOAZwrNw Camp He Ho Ha     http://camphehoha.com/ *  You Tube も楽しい! https://www.youtube.com/watch?v=hnpZfsWaxyg (資料 上から順に  1990年9月撮影) カナナスキスの雄大な自然 カナナスキスでの乗馬 William Watson Lodge 右に立っているのがロッジのマネジャー バンフ国立公園 ペイトー湖を望む展望台にて アルバータ州議会議事堂にて

(2015/9/8)

小 野  鎭