2016.08.10 小野 鎭
一期一会地球旅120「世界一美しい山を見に行こう その1」

一期一会 地球旅 120

世界一美しい山を見に行こう その1

「世界一きれいな海を見に行こう」は、お蔭さまで好評をいただき、旅行が終わった後の集いでも参加者各位から旅行は楽しかった、海が美しくて素晴らしかった! と異口同音に楽しかった旅の思い出が語られていた。パラオの美しい海と現地の人々の文字通り暖かいもてなしを喜んでいただくことができたと思う。 それからしばらくして、ビーポップ代表の湯澤氏から、次は「世界一美しい山を見に行こう」という案を考えて欲しいとの希望を寄せられた。そして、スイスアルプスはどうか、毎年というのはむつかしいので来年、つまり2010年の夏から秋に実施ということで計画を考えて欲しい、ということであった。私は、躊躇なくスイスのベルナーオーバーラントを選び、ミューレン滞在とシルツホルン周遊をメインのアトラクションとして素案を作った。これを選んだ理由はいくつかあった。私事で恐縮であるが、この地域を幾度も訪れており、世界的に名の通った山岳リゾート地帯であり、ユングフラウなどの山岳風景が素晴らしいことはもちろんであるがミューレンという村(集落という意味合い)の位置、眼前に迫るユングフラウ山塊の雄大で荘厳な山並みの風景、美しい山岳美と自然の造作の妙を知ることができること、そこで味わえるであろう様々な楽しみを考えてのことであった。 ユングフラウ一帯は、2001年に「ユングフラウ・アレッチュのスイスアルプス」として世界自然遺産に登録されている。
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さらに2007年にはその登録範囲が拡大されており4,000m級の名峰が連なるその美しさは格別である。ミューレンはその中には含まれていないがこの村の背後にそびえるシルツホルンからは、目の前に広がる大自然の造形美を一幅の絵画のように眺めることができる。この村で美しい自然を探勝すること、一方では宿泊先としてホテル・アイガーがある。筆者は長年、たくさんのお客様をご案内しては、このホテルでのもてなしを喜んでいただいている。残念ながらアクセシブルルーム(車いす使用のお客様などに使いやすいように配慮された部屋)は設けられていないので車いす使用の方々にはご不便をおかけするがいくつかのタイプの部屋のうち、段差のない広い部屋(ツインルーム等)を確保し、ホテル側では、可能な限りの配慮をしてもらうこと、お客様には家族やスタッフなど団員相互で介助していただければホテルライフをお楽しみいただけることはこれまでもたびたび経験していた。ミューレンでは最大規模のホテルの一つであり、ファミリー経営で総支配人はじめ多くのスタッフとは長年の顔なじみ、訪れる度にお客様を大歓迎してくれることが嬉しかった。この村で滞在する上で様々な便宜を図ってくれるであろう、という期待もあった。重度の障がいのある方や知的障がい、小学生から高年齢までメンバー構成も多岐にわたっており、どなたにも楽しんでいただけるようなプログラムを織り込むことが望まれている。宿泊や食事だけでなく、この村に滞在する上でのアトラクションの準備について多方面で協力をお願いするつもりであった。 ベルナーオーバーランド一帯には山岳リゾートがたくさんある。その中でも盟主ともいうべきインターラーケンがあり、次いでグリンデルワルトなど交通至便で観光、登山やトレッキング、スキーなど一年を通してたくさんの人々でにぎわっている。
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それに比べるとミューレンは、巨大なU字型のラウターブルンネン峡谷の肩の部分にあり、いわばアルプスの中腹にある小さな集落。この村を訪れるためには、自分の足以外の交通手段はロープウェイとそれにつながる山岳鉄道であり、自動車道路は作られていない。いわば、カーフリー(クルマの無い)の村であり、ここには荷物や農機具などを運ぶ電気自動車以外の自動車は無い。村の人たちは、はるか800m下りた谷底に自分たちのクルマを置いてあるらしい。村の端から端までは、普通に歩いて15分くらいであろうか、綺麗に舗装された起伏のある道路の両側には美しい高山植物と花々が咲き乱れており、シャレー風の民家やレストラン、ホテルやロッジなどの窓辺にはゼラニュームなど美しい花が置かれ、訪れる人々の目を楽しませてくれる。村は美しいアルプ(山岳牧場)の中にあり、モミなどの針葉樹の森が取り囲んでいた。牧場の中には、山道があちこちに延び、これを歩きながら高山植物の花畑を眺めることがとても楽しく、花の村としても知られている。昼間は観光客などの姿も見かけるが、夕方になると白銀の峰々がばら色に染まり、やがて夜のとばりが降りると村は静寂さに包まれ、見上げると満点の星が手に取るようにまたたく。 ミューレンの背後にあるシルツホルン、その頂上ピッツグロリア(栄光の頂)は海抜2,980m、4,000m級のユングフラウの巨大な山並みに比べれば千メートル以上も低いがベルナーオーバーラントの山岳一帯から平地までの雄大な風景を眺めることができる絶好の展望台である。シルツホルン周遊のほかに、アルプ(山岳牧場)の散歩やチーズ農家の訪問、ロープウェイや鉄道などの旅、スイスの民俗楽器やメロディーを楽しむことなどがミューレンでのお楽しみの計画であった。アルプスの山々をバックにアルプホルンの音色を聞かせていただくプランも考えた。勿論、このあたりの郷土料理を味わっていただくことは言うまでもない。つまり、美しい山を訪ねるとは、山自体の美しさだけでなく、その地方の自然と人々とのふれあいなど含めて楽しんでいただこうと考えた結果であった。こうして出来上がったプランが、「Viva Swiss ベルナーオーバーラント8日間の旅」であった。
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今回も、「障害者の社会参加をすすめる会」と「特定非営利活動法人ビーポップ」の共催で行われ、両団体が運営される作業所や教室の参加者やご家族と関係者そしてスタッフなどへ参加呼びかけが行われた。グループ内では、この計画を「世界一美しい山を見に行こう」と銘打って紹介された。取扱旅行会社としては、受注型企画旅行であっても、誇大広告であるとか、明確な根拠のないものを〇〇〇と謳うことはできないので「世界一美しい山」と主観的に表現することはできないが、お客様がグループ内でそれをそのように表現され、メンバーへ呼び掛けられることは自由であり、皆さんの期待が次第に高まっていったようであった。 航空便の予約は、昔は航空会社と直に交渉して準備をしてきたが近年ではほとんど大手ホールセラー(素材提供代理店)を通じて座席を確保することが多い。車いす使用のお客様があることもこの代理店に伝え、同社から提示される質問状にお客様情報を書き込んで航空会社に提示して予約受付の確認を待つことになる。車いすは電動か手動の区別、その構造とサイズ、重量などに添えて、使用の理由つまり身体障害、肢体不自由あるいは病気やケガなどによるものであることなどを伝える。最近では医師の診断書、さらには搭乗許可を得るための搭乗同意書の提出を求められることは以前よりずっと少なくなってきているように感じる。むしろ、航空会社では、お身体の不自由な方や病気の方などで特別の配慮を必要とされる方への案内とサービスは昔に比べるとずっと積極的に受け入れる体制が整ってきており、その姿勢がとても好ましく思える。 ミューレンのホテルにはアクセシブルルームは無いが、今回の行程では、チューリヒとルツェルンでは可能であること、但し、ツインルームではなくクィーンサイズベッドとロールインシャワー( Roll in Shower)であることをお客様にお伝えしたところ、エキストラベッドを入れて欲しいとの希望を寄せられた。部屋全体がかなり手狭になることを了承いただいて手配会社を通じてホテルへ準備を申し入れた。同時に、団員であるスタッフの部屋はできるだけアクセシブルルームと近いところに確保してほしいことも希望した。日本のホテルや旅館であれば事前に宿泊棟の平面図や部屋割り表などを入手して可能な限り細かく手配してもらえる。しかし、海外の場合はそこまで細かく情報を得るのは難しいことが多いので可能な限りの申し入れをして置き、現地で再度確認することが肝要である。幸い、この時はほとんどそれが叶えられ、おおむね快適に過ごしていただくことができた。また、貸切バスは、今回は空港送迎が二度、ほかに長距離移動が二度あるが大型のリフト付きバスの手配が可能であるとの情報を得た。こうして準備が進められ、今回も、約1年前の旅行参加呼びかけに始まり、参加の意志表示をされた方への説明会、そして出発1か月前くらいに旅行出発へ向けての最終案内と都合三回ほど入念な案内をさせていただいた。
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Viva Swiss ベルナーオーバーラント8日間 「世界一美しい山を見に行こう」は準備が整い、2010年8月26日 成田空港に参加者全員が集合された。脳性まひなどによる肢体不自由で車いす使用の方3名、知的障がい2名、小学生2名と家族やスタッフなど合計14名様に添乗員としての筆者を加えてチューリヒへ向かった。 (以下次号) (資料 上から順に) ミューレンは地図の右真ん中あたり(資料借用) ミューレンの村(資料借用) ベルナーオーバーラント 8日間の旅 旅行案内(2010年4月) 成田発チューリヒへ(2010年8月26日) (2016/08/09) 小 野  鎭