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トラベルヘルパーマガジン
小野先生の一期一会地球旅
2016.08.17 小野 鎭
一期一会地球旅121「世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss その2」
一期一会 地球旅 121
世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss
その2
成田を発ってチューリヒまで12時間近く、順調な飛行が続いた。1万mの上空から見下ろすシベリアの大地はとにかく広大であった。
メンバーは写真を撮りあったり、ゲームに興じたり、眠ったり、ときどき背伸びをしてはスイスアルプスへの期待を益々大きくしていた。K君は初めての親離れだそうで、成田空港で初めてスイスに行くことを知らされたとか。それまではアメリカに行くのだと思っていたらしい。頼もしいスタッフメンバーがK君をサポートすることになっている。スイスに行くと聞いて不思議そうな顔をしていたが機内ではすっかり落ち着き、みんなと楽しく過ごしていた。
現地時間15時55分、予定通り、チューリヒ空港に着いた。到着ゲートからターミナルビルへ向かう新交通(地下鉄)の窓にはアルプスの牧場風景が映し出され、ハイジが歓迎して乳牛がモーッと鳴き声を響かせていた。何事も厳格でしかつめらしいスイス人が作ったにしては何ともユーモラスな空港設備、あっという間の動画であったが長い空の旅の疲れを癒してくれた。 チューリヒはスイス最大の都市、とはいっても人口50万人ほどらしいが周辺の郊外地域との都市圏は同名の湖の周辺とそこから流れ出すリマト川の両側に広がる美しい町。緑濃い中心街にあるグロッケンホフは、昔から馴染みのあるホテル。シックな造りで居心地もよく親しみのあるホテルであったが、ロビーが狭くグループのチェックインなどは落ち着かないことが玉に瑕、そんな印象を持ち続けていた。
ところが現地オペレーター(手配会社)に言わせると、今は改装されてランクも一つ上がっているとのこと。きっとお気に入り頂けると思います、との説明を受けていたので期待通りであってほしいと願いつつチェックインした。 なるほど、昔と違ってロビーも広くて明るく、ご機嫌な気分。アクセシブルルームには、大きなベッドのほかにエクストラベッドが置かれ、メンバーは部屋に入るなり、「思った以上に広いじゃん!」と気に入っていただけたようであった。ホテル中庭のレストランで夕食、テーブルに着いたのは夜8時近くであったが、空は薄暗くなってきたころであった。折しも近くにある教会の鐘の音がガラン、ゴロン、ガラン、ゴロンと響いてきた。このホテルの名前 Glockenhofは鐘の館、その名前の通りであった。夕食をいただきながら、舟をこぐメンバーもあった。日本との時差7時間を考えると午前3時過ぎ、無理もない。
夕食後、数人のメンバーを案内して散歩に出かけた。バンホーフ・シュトラッセ(駅前通り)は、この町の目抜き通り、有名ブティックや銀行が軒を連ねている。昼間は買い物客や観光客、そしてビジネスマンが行きかい、活気にあふれているが夜も8時を過ぎると人通りも減り、ウィンドウショッピングする人がちらほら。この町では市電が網の目のように走っており、文字通り市民の足。青と白で塗り分けられた洒落たデザインで騒音もほとんどなく、乗り心地が良い。ドアの入り口には、押釦がありステップも低く、乗りやすい。一か所のドアには車いすかベビーカーのマークが描かれており、そのボタンを押すとステップが下がって車いすの客も容易に乗車できる。
所定のスペースに落ちついてフックを引っ掛けて固定する。固定するのを待って電車は発車する。この間、運転士は運転台に座っていて鏡を見ながら安全を確認しているらしい。停留所を2,3か所過ぎて湖岸で降りると、チューリヒ湖は波も静かで、リマト川の川面と続き街の灯が美しく揺らめいていた。今回の旅行では、この町は一泊のみ、明日は目的地ミューレンを目指して朝食後すぐに出発することになっている。スイスの第一夜、美しい夜景を楽しんでいただいてホテルへ戻った。 この町の市電に乗ると思い出すことがある。遥かな昔、ほとんど数人しか乗っていない車中で自分も座席に座り、隣が空いていたので何気なく足を組んで、窓から見える街の風景を見ていた。しばらくすると、向かい側に座っていた初老と思われる男性が咳ばらいを始めた。最初は気にも留めなかったが幾度か繰り返すのでその男性に目をやったところ、厳しい目つきでこちらを見ている。何だろう?と思ったが、ハッと気づいて、組んでいた足を下した。すると、その男性はニヤッと笑って咳ばらいを止めた。何とも恥ずかしい思いであった。以後、この町に限らず鉄道などの車内で足を組むことはしなくなった。劇場やレストランでは言うまでもない。もう何十年も前の話。
翌日は、生憎の雨。ホテルの玄関わきにスーツケースを並べて待っていると予定通り、リフト付きの大型バスがやってきた。ドライバーは昨日、空港からホテルまで運んでくれたハンス。今日、そして後半の送迎もすべて彼が来てくれるらしい。貸切バスが確実に来てくれて、予定通り動いてくれることはバス旅行の成否の要と言っても良い。増して、自分のようにローカルガイドやスルーエスコート(現地で別に雇用する添乗員)無しで、すべてを自分で案内し、バス旅行を取り仕切る場合は、ドライバーとの協働が何よりも大切なカギとなる。今回は、小学校低学年から60代まで幅広い年齢層、肢体不自由などで車いす使用の方や知的障がいのあるメンバーもある。スイスの国や人、自然や風土、観光地や山の風景、名物料理やお薦めのお土産品などをできるだけ皆さん全員に分かり易く説明することを心がけた。さりとて、スイスには何十回も行っているとはいっても、現地に住んでいるわけではないので、生活の実体験があるわけではない。耳学問とスイス政府観光局やホテルアイガーなどから得られる最新情報などを頭に入れ、ドライバーに確認しつつ丁寧に案内することを心がけた。
首都ベルンに着くころには雨も上がり、少しずつ空が青くなってきた。アーレ川が大きく湾曲してU字型になった高台の上に中心街があり、中央駅や連邦議事堂などがある。そして、これも大きな石造りのがっしりした建物があり、その地下にKornhaus Kellerと名付けられたレストランがある。かつては穀物庫であったそうで、それがそのままレストランの名前になっている。昔は、民族音楽などを聞かせてくれるバンドが入って民謡酒場風な趣であったがすっかり様変わりしていた。
レストラン全体がシックな雰囲気で各テーブルには白いテーブルクロスが掛けられて、キャンドルが灯されており、高級レストランとして生まれ変わっていた。昼もなかなかしゃれた雰囲気であったが、夕食はちょっとドレスアップしていく方が良いかもしれない。今思うと、淡いキャンドルの灯がともっている様子を見ると、この旅行の主催者である障害者の社会参加をすすめる会「夢燈館」にふさわしい雰囲気であったかもしれない。
ところで、地下にあるこのレストランに行くにはお城にあるような大きな階段を下りていかなければならないが、古い建物であり、エレベーターは後付けらしい。建物の裏側に回った入口にあり上層階にある美術館や事務所との共用。概して、ヨーロッパの古い建物は何世紀も前に建てられたものが今も事務所やホテル、住宅などとして使われていることがある。がっしりしたドアを開けて入ると、天井が高く、内部はすっかりモダンに模様替えされていることが多い。ホールにはらせん階段があり、その中に鳥かごのようなエレベーターが設置されていることがある。
格子状のドアを自分で閉めて上がって行くというスタイルである。最初は戸惑うことが多いが、慣れてくるとこれも楽しい。昼食後、すっかり天気が回復して空は青く澄み渡って眩しいほど、1時間余のフリータイム。世界遺産の旧市街や大聖堂と時計塔などを見学してきた人たちもあったし、アーレ川に架かった高い橋の上から旧市街と遥かアルプスを望む絶景をバックに写真を撮ったグループもあった。ほんのひと時でも、こうして三々五々町を歩くと旅の思い出がまた一つ増える。
ベルンから南東へ1時間余り、やがて緑の湖面と湖畔に広がる美しい村、ツーン湖が車窓に広がり、その向こうに雪をかぶった峰々が見えてきた。思わず歓声が上がる。バスは谷の奥へ入っていき次第に高度が上がって行く。窓の外を流れている川は、ごうごうと音を立てる激流、氷河が周りの谷や岩を削って流れてくるため白濁している。やがて、ラウターブルンネンに到着してバスを降りると両側は遥か数百メートルの切り立った崖、そして、シュタブバッハの滝、高さ297mあるそうでその名前の通りの飛沫を上げて落ちていた。これから行くミューレンはこの滝の上はるか向こうシルツホルン山塊のふもとにある。 (以下次号) (資料 上から順に、 一部を除いて2010年8月撮影) チューリヒ空港、この日ははるか遠くにアルプスが見えていた。 同、搭乗ターミナルにある特別アシスタントが必要な方への分かりやすい案内。 同、メインターミナルへの新交通(地下鉄)乗り場。ハイジまで30秒! グロッケンホフホテルのステッカー(往時、良く泊まっていたころのもの) チューリヒ市電の車内。 チューリヒ湖の夜景。 リフト付き大型バス。 ベルン市内点描、ドームは連邦議事堂。 同、時計塔。 同、旧市街を走る市電、障がいのある人や高齢の乗客にも優しい。案内も分かりやすい。 ラウターブルンネン、シュタウバッハの滝、ミューレンは滝の上はるか向こうにある。 (2016/8/16) 小 野 鎭
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