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トラベルヘルパーマガジン
小野先生の一期一会地球旅
2016.08.24 小野 鎭
一期一会地球旅122「世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss その3」
一期一会 地球旅 122
世界一美しい山を見に行こう Viva Swiss
その3
ラウターブルンネンから大型のロープウェイでグリュッチアルプに向かう。2005年に来たときは、ケーブルカーであったが、設備が古くなって経済効果や速度、保全管理面などからロープウェイにかけ替えられたのであろうか。2006年には、すでにロープウェイに替わっており、かつてのケーブルカーの線路は撤去されていた。急こう配の線路跡は草地がそのまま残っているが両側は背の高いモミの木が文字通り林立してうっそうと茂っている。いわば線路跡は、産業遺産ともいうべき存在かもしれない。ゴンドラが上がって行くにつれて、みるみるうちに谷全体が見渡せるようになり、ユングフラウ山塊の名峰群が圧倒するように威容を見せてくる。メンバーは異口同音に、すごい! アルプスだー、谷間に見えるのは氷河かなー?などと歓声を上げる。
毎度のことであるが、案内するお客さまはこの雄大なパノラマに見入られて感動が一気に高まる。その様子を見ているとこちらも嬉しくなる。グリュッチアルプでゴンドラを降りて今度はミューレン鉄道に乗り換える。車いすの方は数段の段差があるデッキも簡易リフトですんなり乗車、スーツケースなどの荷物を入れた台車はクレーンでそのまま貨物車に積み替えられる。いつ見てもそのスムーズな仕組みには感心させられる。モミの林を抜け、アルプ(山岳牧場)の中を縫い、途中小さな川を渡る。その川の流れが谷底から見上げたシュタウバッハの滝となって数百メートルの飛沫を上げて落ちていることを思うと自然の造形の妙を改めて感じる。車窓からの風景に歓声を上げ乍ら夢中でカメラを向けているうちに海抜1634mのミューレン駅に着く。
車いすのメンバーは駅舎の向こうのスロープを回って駅前へ出ると目の前にホテルアイガーがある。スーツケースもホテルのスタッフが電気自動車で運んでくれた。玄関では、ホテルのスタッフが笑顔で出迎えてくれた。チェックインを終えると総支配人のアドリアン・シュターリが夫人と共に、そして先代のアンネリーズ夫人も一緒に一行を歓迎してくれた。メンバーは、はるばるさいたまから携えてきた土産を手渡して、3日間滞在しますのでよろしくお願いします!と挨拶し、笑顔で交歓。 筆者がこのホテルに初めて投宿したのはアドリアンがまだ小学生であったらしい。それから40年以上が過ぎる。幾度訪れたであろうか。私の大切なお客様をお連れするたびに先々代、そして先代のシュターリ夫人そして今、ホテルを上げていつも歓迎してくれる。今回は3泊のホテルライフと食事、ほかにチーズ農家の訪問、アルプホルン奏者の招請、トローメルバッハ(滝)との折衝(後述)などこの美しい村での滞在を楽しむためにたくさんの準備をしてくれている。前述したが、このホテルにはアクセシブルルームは設置されていない。今回は3人の車いすのメンバーがおられるがスタッフが介助者として同室、いずれも少し広めのツインルーム(2ベッド)でバストイレ付の部屋を準備してもらった。古くからある建物に新館を継ぎ足して全体で大きな建物となっているので、廊下の途中に2~3段の段差があるがその段差の手前の部屋が確保されていた。日本でも温泉地の旅館や山の宿などでは階段を上がったり下りたり、奥の方でさらに曲がりくねっていたり、時に迷子になりそうなこともある。ヨーロッパでは、古い建物が何軒か繋ぎ合わされて一軒のホテルとして使われていることも珍しくない。エレベーターも後付けで設置されていることもある。裏表あるいは左右にドアがあって正面から入って突き抜けたり、横に出たりして驚くほど複雑な構造になっていることもある。日本ならばとっくに古い建物を取り壊して新しく建て直してずっと使いやすくなっていることが多い。しかし、古いものを愛し、村の造りや建物そのものも伝統的な建て方が維持されており、その古さや不便さはむしろ愛嬌であるといってもいいかもしれない。 バリアフリーの観点から言えば、不便も多いのでそこに泊まるからにはそれ以上の何かメリットや喜びを期待し、発見し、保証することが旅行会社にも求められる。
今回もホテルアイガーでは可能な限りの配慮をしてくれており、メンバーはそれぞれに各部屋に落ちつくことができた。窓を開けると目の前にアイガー、メンヒ、そしてユングフラウの赤黒く巨大な岸壁が立ちはだかっている。手に取るほど近くに見えるが直線距離では2~3㎞あるだろう、そしてその間にラウターブルンネンの谷がある。このあたりでは、深さ800m近くあるだろう。ほとんど垂直に落ちている。その向こうにユングフラウが聳えている。メンバーの中には、各地で地ビールを味わうことを楽しみにしている方もあるが、ここミューレンでは千鳥足はくれぐれもご用心。うっかりこの深い谷に転げ落ちたら大変! 山の朝はいつも早く目が覚める。今日の天気はどうであろう? 部屋を出て、そっと階段を下りて玄関から出てみると生憎の冷たい雨。駅の赤い信号灯が煙って見えた。ロビーでノート・パソコンを開く。当時からすでに6年が過ぎるので今では客室内でもWi-Fiが通じるかもしれないがこの時は、ロビーでなければネットがつながらなかった。メールを見たり、日本のニュースを読んだりして様々な情報を収集しなければならない。昔は、ときどき会社に電話を入れたり、テレビで日本のニュースを見たり、日本から新聞を送ってもらって1週間くらい前の話題を拾ったり、手紙がホテル気付で届いたりしていた。それでも次第にFAXが普及してきてそこで新たな情報を得ることもできるようになっていった。今考えると随分のんびりした時代であった。 そういえば「No news is good news」という表現もあった。しかし、今では添乗中もノート・パソコンは必需品、I-Padをフルに活用する人もあるが私はその方には詳しくなく、相変わらずのアナログ派である。 ロビーの傍らでは、ビーポップの野崎氏がパソコン、カメラ、撮影機材や三脚などを準備しておられた。彼はコンピュータや映像関係にとても明るく、プロはだし、(いやプロかもしれない)今回は写真だけでなく各地でメンバーが交互に動画を撮り、これをネット配信して日本でも同時に見られるように予め仕組みを整えてあり、忙しく動き回っておられた。この旅行始め毎回の旅行の記録がホームページに掲載されており、いまも静止画像あるいは動画を見ることができる。
http://www.npo-b-pop.net/past/index.html
B-POPでは毎回の旅行が終わると素晴らしい思い出を編集してDVDに鮮やかに残しておられる。 どの映像も最後のエンドロール(エンドクレジット)には、キャスト(旅行参加者)、添乗員、担当旅行会社名と担当者、手配会社(Land Operator)、ホテルや観光地で対応してくれた人々、バスのドライバーや現地ガイド、航空会社や鉄道、政府観光局や現地で交流した人々や訪問先、B-POPで留守を預かった方々最後に旅行主催者名など一人残さず紹介されている。添乗員がメモを取り忘れた出迎えの現地ガイドの名前まで記録されていることもある。映画の場合は、キャスト(出演者)に始まって原作、脚本、カメラ、衣装、結髪、技術、大小の道具、音楽、演奏、その他もろもろと続き、外国の場合であればさらに通訳や行政機関、観光局、旅行会社、航空会社など、助監督そして製作、最後に監督が紹介されている。つまり一本の映画を作るために何百という人が関わっており、その総指揮者が監督であろう。そこにはすべてを見事に取り仕切るための長年のキャリアがあり、かかわった人々すべての力が結集されている。
旅行も規模は違うかもしれないがやはり同様であり、システム産業といわれる所以である。それぞれの業種は通常は直接の接触は無いことが多いが、手配会社がこれをうまくつなぎ合わせ、これをパートナーとして旅行会社の担当者が取りまとめていく。それをどこまでうまくつなぎ合わせるかが旅行担当者の腕と知恵、そして最終仕上げは添乗員と言っても過言ではあるまい。留まるところ、「旅行は人が作る」ということであり、どこまで心を込めて作るかが最後の決め手になると常々思っている。B-POPで作られるDVDはいつもたくさんの思い出が見事に集約されているがその旅行に関わった人すべてを網羅して下さっていることにいつも感謝している。 成田を発って三日目、今回の旅行のハイライトともういうべきシルツホルン周遊、ピッツグロリアから「世界一美しい山をみよう!」というのが今日の予定である。しかし、次第に夜が明けて少しずつ明るくなってきても雨は依然として止む気配が無かった。まさに無情の雨とはこのことを言うのであろう。 この先、天候は回復するだろうか? 暗澹たる思いで、ちょうどドアが開けられたレストランへ皆さんを朝食にご案内した。(以下次号) (資料 上から順に、 ことわりないもの以外は2010年8月撮影) ラウターブルンネンから上がって来るロープウェイ、後方はヴェンゲンの村(資料借用) グリュッチアルプ駅にある簡易リフト ホテルアイガーでは大きな乳牛が出迎えてくれる! ユングフラウは雲の右手奥にそびえている。 B-POP in Swiss (DVD ジャケット 表) 同上 (裏) (2016/8/23) 小 野 鎭
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小野 鎭
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