2014.07.08 小野 鎭
小野先生の一期一会地球旅⑫外国語(英語)で苦労したこと (その1 フランクフルト)

外国語(英語)で苦労したこと  その1 フランクフルトでの思い出

 小野 鎭

 旅行業に就いてIn-bound(外人旅行部)で働くには当時の自分の語学力(英会話)では無理であった」ことは第1回目の「旅行業従事50年を経て感じること」で述べた。そして海外旅行部に配属されて航空運賃の計算や航空券の発券業務を担当した。結果的には、このことはとてもラッキーであり、4年半後、明治航空サービスに移り、専門視察を主とする団体旅行の業務に携わるようになり、海外添乗はごく当たり前になっていった。受け持った分野の顧客先も徐々に増え、そこからさらに専門分野の幅を広げることにより営業先も広がっていった。つまり、受け持ち分野を広げることが結果的には顧客先を増やしていくことにつながっていったということになる。

さて、海外添乗業務では、英語は必須である。空港などでの航空会社とのやり取り、送迎関係、ホテルやレストラン、視察や観光などで手配内容が予定通り行われているかどうかを確認すると共に、万一内容が違っていたときや交通機関の遅延などが起きたときにこれらに対処すること。 あるいは予期せぬトラブルが起きたときにこれをうまく解決するための業務などが主たる任務(旅程管理業務)である。従って、そのために必要な外国語(通常は英語)を話せることが最低条件の一つとなる。67年秋に明治に移ってからは年に数回 100日以上も海外へ出るようになって様々なトラブルや出来事に対処しているうちに次第に英語もしゃべれるようになっていった。心臓も「押し」も強くなり、様々な交渉のテクニックも覚え、添乗技術は上達していったと思う。

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しかしながら、T/V(Technical Visits=専門視察)を得意とする会社としては、単なる添乗業務にとどまるのでなく、時に応じてそのための専門語や分野毎(農協や漁協、教育、福祉、医療、都市・国土計画など)の視察・研修内容等についての理解をすることや語彙を覚えることも必要であった。また、視察訪問や研修受け入れ承諾を取り付けるための英文レター=通称T/Vレター作成が必要であり、英語力を高めることは必要条件であった。

幸い、同じ専門分野の視察団などに幾度も添乗しているうちに類似の訪問先であったりした場合は行われる説明や尋ねられる質問、それに返される答や説明もある程度見当がつくこともあった。現地雇用の通訳者には長けた人もあるがそうではない人もあった。また、その専門分野に対して熱心に取り組んでくれる人もあるがそうではない人もあった。旅行代金との絡みもあり、同時通訳者のようなレベルの高い人は雇用しにくいし、視察先が大都市からはるか遠隔地である時はそこまで通訳者を呼ぶことで経費が高くなることもあり、視察先の選定が不利になることもあった。

一方では、専門語であったり、人名や数字や単位などを書きとったりしながら現地通訳者への応援をすることも多くなり、興味ある分野であまりむつかしくないときや短時間のときは、自分自身で通訳をすることも試みるようになっていった。そんなことを繰り返しているうちに、次第に筆者自身が添乗業務を行いながらT/Vについても通訳をすることが増えていき、専門分野に強い添乗兼通訳ということで重宝がられるようになっていった。特に70年代後半からは、旅行だけでなく良い視察や研修ができたと喜ばれることが多くなり、営業上の強みとなっていった。

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国際会議等の同時通訳や重要な公式通訳は無理であるが、得意分野の視察や研修旅行などでは企画・営業・手配・添乗・通訳を一人でやることが多かった。とはいっても、それは主たる顧客先や行政などの担当者が贔屓にしてくださっているのであって、公的、つまり、今日でいえば、TOEFLとかTOEICといった客観的な評価基準によるものではなかった。Living English=文字通り、生活のための英語であった。

しかしながら、それに至る前の駆け出し時期、あるいは多くの視察団の特性や視察研修などの分野を理解するまでは語学面や専門語などで不十分、というよりはお粗末であった。言いたいことも言えず、ホテルやレストランなどで不利な状態であっても交渉力に欠け、悔しい思いをしたこともたびたびあった。結果としてお客様に不愉快な思いをさせるとか、十分にはご満足いただけないままに終わったこともあった。そのような経験といおうか、何十年も過ぎた今でも苦い思い出として残っているいくつかのことがある。

日本人はビールのシャワーを浴びるの!?

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69年9月、病院団体主催の欧州医療施設視察団、25名のお客様についてコペンハーゲン、ロンドン、アムステルダムを回って8日目にドイツのフランクフルトに着いた。巨大な中央駅の前にある中クラスのホテルに2泊することになっていた。チェックインして部屋割りも終えお客様には部屋に入っていただいた。ロビー横で荷物に部屋番号を書き、ポーターに各部屋にできるだけ早く届けてほしいと指示し、一息ついて、滞在中の予定を再確認していたときであった。大学生のご子息と親子で参加しておられるお客様(医師)が降りてこられ、「自分たちの部屋には、シャワーしか付いていない、困る! どうなっているのだ!?」との苦情であった。

驚いて、フロントに問うたところ、風呂(浴槽)でもシャワーでも同じBadが付いているのだから問題はないでしょう? との説明であった。シャワーとバスは違う、Bath-tub付きの部屋を準備するべきだとランド・オペレーター(地上手配会社)の手配条件書(Itinerary with Conditions)を開きながら強硬に主張した。しかし今日は全館満室であり、無理だとの冷たい返事。添乗員の部屋と交換することも考えたがSingle Roomのため、それもできない。止む無く、明日には必ず浴室付の部屋に変更してもらうことを条件にお客様には今日は我慢していただきたいとお願いせざるを得なかった。お客様は憮然として引き上げられたが申し訳ない気持ちでいっぱいであった。その後、欧州各地を幾度も回るうちに気付いたことは、ドイツ人や北欧人は風呂(浴槽)よりもシャワーを好む人も多く、日本人ほど浴槽付の部屋にはこだわっていないことを知った。スウェーデンやフィンランドはサウナが多いので一層その傾向は強いとも言えよう。

さて、お客様に我慢してもらうことをお願して入室いただいた後、筆者はお客様のご機嫌を直していただきたいと思い、「お詫びの意味をこめて、このお客様にビールを届けてもらいたい、勘定はT/C(添乗員)負担でサインするから」とフロントに申し出た。本当は、ホテル側にこれを負担してもらいたかったがそこまで要求する勇気もなく、説得するだけの表現力も交渉力も持っていなかった。フロントは、筆者が「シャワーで我慢していただくことへのお詫び=Apology」の意味で、ということを理解してくれず、「日本人は風呂の代わりにビールでシャワーを浴びるのか!?」とからかわれた(と思う)。悔しかった! 思わず、「こん畜生!」と叫びたい気持であったがそれもできず、悔し涙が流れそうになった屈辱感を覚えた。それは45年経った今も忘れない。そして痛感したことは、何かを要求するときは言葉の上手下手よりも心臓と押しの強さを持たなければダメなのだ、ということであった。そして、ここぞというときは絶対に引き下がってはならない、とつくづく思ったことである。 それからは、手配段階はもちろん、チェックインするときもホテル側にはしつこいほどRoom with Bath-tub and Toiletを確認するようにしてきた。 ついでに言えば、Double Bed(Queen size Bed)とTwin Bedの区別も常に注意してきた。

参考:今は、オペレーターによっては、次のような一文を各ホテルに伝えている。

We wish to call your attention to the fact that Japanese clients do not like showers and do not consider rooms with private shower as an equivalent to accommodation with bath-tub.  (Kuoni Travel Japan Ltd)

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昨年秋、久しぶりにフランクフルトに立ち寄る機会があった。中央駅の前に立つと遥かな昔に経験した「ビールでシャワー?」ほろ苦い思い出が蘇ってきた。

(資料)上から順に

専門視察訪問許可依頼状(T/V  Letterの例)

英国 国民保健事業 NHS(National Health Services)本所にての講義(84年7月)

医療事情視察団 出発記念写真(69年9月)

フランクフルト中央駅 (ここもご多分にもれず改装工事中。2013年9月)

(2014/06/30)