2023.07.24 小野 鎭
一期一会 地球旅 271 カナダの大自然と遊ぼう15
一期一会・地球旅 271
カナダの大自然と遊ぼう ⑮ カナディアン・ロッキー ⑤
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 旅の6日目、この旅のもう一つの目玉ともいうべきである「コロンビア・アイスフィールド(大氷原)」の見物である。厳密にいうと、この大氷原から流れ出している氷河の上に立ち、そこから大氷原を見物するという趣向である。カナディアン・ロッキーの中ほど、アルバータ州とBC州の州境にMt. Columbia(3750m)始め3000m級の山なみが広がってその一帯にいくつかの氷原(Icefield)が広がっており、コロンビア・アイスフィールドはその中で最も規模が大きく、面積は337㎢、つまり東京都23区の半分くらいの広さがあるらしい。この氷原から6つの氷河が流れ出しており、その一つがアサバスカ氷河とある。それぞれの氷河から流れ出す川が西は太平洋、南(東)はハドソン湾へ流れ、この湾は大西洋へとつながっている。そして、北へ流れる川はやがて北極海へと流れていくとある。案内書を見ると様々な説明があり混乱するが、共通していることは、この大氷原から流れ出す川が3つの大海、すなわち太平洋、大西洋、そして北極海へつながっているということである。まさに大陸分水嶺の一つであるというスケールの大きさに圧倒される。この日のアサバスカ氷河へのツアーは、後ほど、書かせていただこう。
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 ところで、先日来書いているアイスフィールド・パークウェイ(Icefields Parkway)について案内書を見直したところ興味深いことが書いてあった。この道路の建設は、大恐慌時代の失業対策事業の一つとして1931年に始められていたこと。この数字そのものは何とも少なくてよくわからないが、工事がもっとも盛んな時は625人の工夫が働いていたととある。ほとんど機械に頼ることもなくこの険しい山肌を掘り起こし、千古斧が入れられたことのない森林地帯を切り開いていったということ自体、たいへんな難事であっただろうと思う。アメリカのTVAやダム、長大橋の建設など国家的な大事業が大恐慌の失業対策事業として行われたことは知っていたがカナダでも同様に行われていたことは恥ずかしながら今回初めて知った。1939年、アイスフィールド近くのBig Bendと呼ばれる大きくカーブして、急こう配を登っていくところ辺りで南北からの道路建設が結ばれたそうで全長320㎞の砂利道が完成、1961年に道路は現在のように改良されたそうである。バンフ国立公園内を北上し、サンワプタ峠(2035m)を越えるとジャスパー国立公園に入る。そして数キロメートル走ったところにコロンビア・アイスフィールド・ディスカバリー・センター(Columbia Icefield Discovery Centre)があり、眼を左に転じると氷河とその上に巨大なコロンビア・アイスフィールド円蓋上の庇(ひさし)が見え、この一帯がパークウェイ最大の見どころの一つとなっている。
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 コロンビア・アイスフィールド・ディスカバリー・センターは、パークウェイ横につくられており、大きな駐車場が一段低いところにあり、その広さはここを訪れるには乗用車またはバス以外には交通手段がないということであろう。道路をはさんで巨大なアサバスカ氷河とコロンビア・アイスフィールドをながめる位置にある。初めて訪れたのは、1976年、バンフからジャスパーへ抜けたとき、ここで昼食を摂ったと記憶している。その時は、はるかに氷河の舌端が見えるんだ、と遠目に眺め、昼食後少し休んで早々にジャスパーに向かって出発したと思う。レストランと氷河見学のためのツアーセンターなどがあったとは思うがどのような施設であったかはほとんど記憶がない。今考えてみると何とももったいない話である。
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 1982年にトロントで国際学会の後、バンフで2泊して、日帰りでコロンビア・アイスフィールド観光をしたのが初めての経験であった。それまではヨーロッパへの添乗経験が多く、スイスでユングフラウ観光などを度々ご案内していたので氷河は、よく見ていたが、カナディアン・ロッキーのスケールの大きさに驚いたことを思い出す。Ilona Spaar. Ph.DはShaping Mountain Culture in Western Canadaのなかで「登山家 エドワード・ウィンパーは、『ここはスイスを50個集めたようなところだ(50 Switzerlands in One)』と言った」と紹介している。たしかに、トランスカナダ・ハイウェイとアイスフィールド・パークウェイ230kmだけ走っても車窓には氷河をいただく山岳地帯が延々と続いており、山なみの向こう側にはさらにその何倍もの風景が広がっていることを考えるとその通りであろう、と実感する。
 
 その後、1990年にもこの場所を通り抜けているが、このときは氷河地形を車窓から眺め、昼食後ジャスパーに直行したと記憶している。
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 アサバスカ氷河の上に時間をかけて降り立ったのは、2009年であった。勿論、現地手配会社を通じてのツアーを予約してあったが、先に昼食を摂り、その後、雪上車乗り場へ移動した。新旧の雪上車(Snow coach)が並んでおり、多分60人乗りくらいの大きな新型車であった。この時は、車いす使用の方が2名おられ、ほかに歩行障害のある方もおられたがゆっくりステップを登れる方であったので手引きで安全を確保しつつ登っていただいた。車いすの方は、高さ2メートル近い高さのリフトをドライバーが操作して、お一人ずつ、乗降していただいた。座席後部に車いすを慎重に固定して、グループ全員で一緒に氷河の上に降り立つことが出来た。氷河の上は、まさに氷そのもの、午後の陽射しを浴びて氷河の表面は、雪道のようにびちゃびちゃしており、安全を示すロープの内側を滑らないように恐々と車いすを引っ張ったことを思い出す。氷河の上で全員そろってピースサインをして記念写真を撮ったことが嬉しかった。アサバスカ氷河の上はるかに大氷原の庇(ひさし)部分が見え、午後の日が眩しく照り映えていた。(以下次号)
 
【写真と資料:上から順に】
コロンビア・アイスフィールド(最上部の雪原)とアサバスカ氷河(真ん中)、氷河の上の黒い点のような物が雪上車(矢印): 2009年8月30日 筆者撮影
アイスフィールド・パークウェイ : 資料 : Parkways of the Canadian Rockies
 写真(ボウ峠の少し手前) : 2009年8月30日 筆者撮影
コロンビア・アイスフィールド・ディスカバリー・センターにて : (同上) 
The Canadian Rockies “50 Switzerlands in One”: CPR 資料より
アサバスカ氷河の上で : 2009年8月30日 筆者撮影