2023.09.19 小野 鎭
一期一会 地球旅 279 カナダの大自然と遊ぼう23
 一期一会・地球旅 279 
カナダの大自然と遊ぼう㉓ Can-Rock⑬ 
《バンフの湖にみる生態系の保護と保全:その1》 
 
 このところカナディアン・ロッキーの環境保護や保全について書いているが自分が訪れて実際に歩いたのは、主だった観光地とその周辺であり、山歩きなどはほとんど経験しておらず、遠くから眺めるのみ。そんな自分がもっともらしく書くことに対しては少々面はゆさを覚えているがもう一つ書かせていただきたい。 
 
 今回のテーマは、カナダの公共放送CBCで報じられた Parks Canada kills fish in remote Banff lakes to protect at-risk native species 「パークス・カナダが危機下にある在来種を保護するためにバンフにある人里離れた湖水の魚類を駆除する」という2020年に報じられた話題。詳しくは「バンフ国立公園の人里離れた地にある湖水の魚類を駆除しているが、これはその湖の下流に生息している在来種を保護するために採られている措置」であり、「魚を駆除するために使用されている化学薬品は広範囲な生態系には有害ではない」とパークス・カナダ(カナダ公園局)の専門家が語っていること。これについてジャーナリストのH・コストがコメントしている。(2020年8月15日) 
 
 この湖とは、ヘレン湖とキャサリン湖。バンフからジャスパーに到るパークウェイを北上していくとボウ峠があり、その手前から山道を登っていくとヘレン・レイク・トレイルがある。その突き当りにヘレン湖が位置している。筆者は、ボウ峠はこれまでに幾度か通り、ペイトー湖やボウ湖は下車して見物している。しかし、残念ながら、このあたりのトレイルを実際に歩いたことはない。今回、この項を書くにあたり、Helen Lake Trailを調べてみるとバンフ国立公園の中でも評判のトレイルであり、人気も高いとある。 
 
 実は、このトレイルに興味を覚えたのにはワケがある。長年ご贔屓いただいていた社会保険関係団体の職員で、地域の中核病院の看護師としても活躍されていた村松様がおられ、社のメルマガ「にこにこ通信」をお読みくださっている。海外看護事情視察団にも参加され、自分が通訳兼添乗員としてご案内したことから今日までご交誼いただいている。 村松様は山好きでもあり、国内各地の山だけでなく、ニュージーランドやカナダにもお出かけになったと聞いている。そして、このところカナディアン・ロッキーについて書いているうちにバンフでは「ヘレン・レイク・トレイル」を歩いたことがある、とメールを下さり、クロウフット氷河も眺めましたよ、と添えてあった。そこで筆者が実際には歩いたこともないこの山歩きに俄然、興味を覚えて調べているうちに、今回の話題に到ったという次第。 
 
 93号線(アイスフィールド・パークウェイ)を北上していくとボウ渓谷が広くなり、山々のふもとには針葉樹の森が広がっている。その中にヘクター湖、その先にはモスキート・クリーク・キャンプ場、そしてボウ峠の手前にクロウフット氷河展望所がある。そこから東へ入って山道を登っていくと、ヘレン・レイク・トレイルがある。資料には、聳え立つ岩峰群をながめながら草地を進んでいくと一面のお花畑が広がっているとある。ワタスゲ、ウェスタン・アネモネ、赤のペイント・ブラッシュ、オダマキ草などが紹介されており7~8月は可憐な花々を楽しめるのではないだろうか。このトレイルからは前述したクロウフット氷河やボウ氷河、白雪を抱く山々など雄大でゴージャスな風景が紹介されている。 
 
 写真を見ると、岩峰群としては、ドロマイテピーク(2998m、但し、地図には2782mと書かれているものもある)がある。その山容は北イタリアのドロミテ山塊に似た峨々たる山稜から成っており、そこから付けられた名前であろう。また、前方にあるヘレン湖の向こう側には巨大な三角形のサーキュ・ピーク(2980m)がそびえている。ヘレン湖からさらに小高くなったトレイルを進んでいくとドロマイテピークのふもとにキャサリン湖がある。地図を見るとヘレン湖の数倍はありそうな湖面が広がっている。二つの湖は、標高2380m位あるが、このあたりではパークウェイそのものも高度は2000mを越えているのでそれほど高いところにあるという感じはないのかもしれない。 
 
 これらの高山湖は、流れ出す急な渓流はあっても流れ込む水は周辺の2800~3000m級の山々からであり、魚類は生息していなかった。しかし、1940~50年頃、釣りを楽しむためにマス科の魚が移入されたとか。詳しくは、ヘレン湖に、イースタン・ブルック・トラウト(和名は、東ブルック・カワマスということになるのだろうか)、キャサリン湖にはイェローストン・カットスロート・トラウト(イェローストンのどきりマス?)が放流された。ところが、移入種は、これらの湖から下流の渓流や湖水などに昔から生息している在来種のウェストスロープ・カットスロート・トラウト(和名は、赤のどきりマス?)を脅かして次第に絶滅危機下に追いやっていった。 
 
 そこで、パークス・カナダでは、今後2年間で二つの湖とその下流の渓流に生息しているすべての外来種を駆除し、それが完了したら絶滅危機下にあるウェストスロープ・カットスロート・トラウトを二つの湖の渓流に再度、住まわせようというのがこのプロジェクトのねらいである。原因は、移入されたヘレン湖のイースタン・ブルック・トラウトがこの湖の下流に生息している在来種を簡単に打ち負かしてしまうため、とのこと。イースタン・ブルック・トラウトはカナダの東部では、酸性雨と気温上昇の影響で数が減少して絶滅危惧種として扱われているが、バンフでは、外来種として扱われているそうである。国土面積が日本の26倍余りの広大な国土を有する国ならでは、の話かもしれない。 
 
 一方、キャサリン湖のイェローストン・カットスロート・トラウトは、アメリカのマスの亜種で実際にはカナダには生息していない種。この移入種は下流の在来種のカットスロート・トラウトと交雑する恐れがあり、それはアルバータ州のこの種にとっては大きな問題であるという。(この項、前半終わり、後半は次号へ) 
 
【資料と写真、上から順に】 
《資料》 
・Parks Canada kills fish in remote Banff lakes to protect at-risk native 
 species.  Hanna Kost / CBC News.  (August 15, 2020) 
・Helen Lake : Hike the Canadian Rockies 
・Helen Lake Trail : All Trails 
・Helen Lake and Dolomite Pass :Hiking and Walking 
・Helen and Katherine Lakes : Banff National Park, Parks Canada 
 Parks Canada is working to restore ecological integrity in Banff National Park. 
《写真》 
・ヘレン湖とサーキュ・ピーク : 村松様ご提供 
・ヘレン・レイク・トレイル、後方はボウ渓谷方面 : 村松様ご提供 
・ヘレン・レイク・トレイル、お花畑を歩く山人たち : 村松様ご提供 
・ドロマイテピーク : 村松様ご提供 
・イースタン・ブルック・トラウト : Freshwater Fisheries Society of British Columbiaより 
・ウェストスロープ・カットスロート・トラウト : Nature Conservation Canadaより 
・イェローストン・カットスロート・トラウト : Western Native Trout Initiative より