2023.11.13 小野 鎭
一期一会 地球旅 287 カナダの大自然と遊ぼう 番外編2
一期一会・地球旅 287 
カナダの大自然と遊ぼう 
番外編 ② カナナスキスからジャスパーへ ② 

 実際の旅行では、バンフで一日観光や買い物と自由行動、翌日はWilliam Watson Lodgeを見学した。このロッジには、Accessible Room 22ユニットがある。さらに庭先の森を抜けて湖水などへ至る散歩道(トレイル)は車いすで行けるような配慮がなされていたし、適当な感覚で点字も付されていた。この時、ロッジのマネジャーとして案内してくれた青年はトレイルを歩くとき、手を引いてくれと申し出があった。その時、初めて気づいたのだが彼は目が不自由であった。アルバータ州立大学の林産学部出身で森林関係の仕事をしながら、このロッジのマネジャーを兼務しているとのことであった。トレイルをみんなでゆっくり歩き、目の前いっぱいに広がる原野とカナナスキス湖の湖面に明るい秋の日差しがまばゆく照り映えていた。そのあと、ロッジのテラスでBBQ式のランチは雄大な風景を眺めつつ、楽しいひと時であった。午後は、ロッジ近くにある乗馬クラブで、乗馬を楽しむとか、午後のひと時をゆっくり過ごした。実は、旅行を主催された地域福祉研究会ゆきわりそうには、群馬県の妙義山のふもとに山荘があり、そこでは乗馬プログラムもあり、月に数回、そこまで出かけてホースセラピーを兼ねて乗馬に親しんでいるメンバーもあり、カナディアン・ロッキーの雄大な山並みを眺めながらの乗馬はとても好評であった。 

 あれから30年余りが過ぎる。そこで、今回この項を書くにあたり、このロッジについてもう一度調べてみた。 
 
 ウィリアム・ワトソン・ロッジは、ピーター・ライード州立公園内にあり、アルバータ州政府によって1981年に建設され、運営されてきた。発端は、かつてのアルバータ州首相であったピーター・ライードの夫人ジャンヌが提案した、「障害のあるアルバータ州民が滞在できて、手ごろな料金でアウトドアを楽しめる施設を創設しよう」というアイデアに基づいている。障害のあるアルバータ州民が優先されるが、スペースがあれば、同様にシニアも歓迎されている。開設後、施設は州予算で賄われてきたが、民間からの寄付を受け入れるために1992年に非営利の団体が設立され、ウィリアム・ワトソン・ロッジ・ソサエティ(William Watson Lodge Society)と命名された。この法人名は、障害者への社会の考え方を変えさせるために貢献したWilliam Bill Watson(1904~1965)に由来している。彼は、出生時の怪我により両腕が使えなかったが、母親に励まされて水泳やスキーに親しみ、自立して生きることを学び、障害者に対する社会の見方に異議を唱えることに努めた。アルバータ州立大学を卒業して記者になることを目指したが、障害があるために記事を書くことはできないと言われたことに対して発奮し、自分自身をより強めようと旅をしてたくさんのことを経験し、研究に打ち込み、講義をすることに努めた。カルガリー・リハビリテーション協会で活躍し、亡くなるまでの16年間は、完全に全身がマヒしていたが障害者に対するより良い理解と挑戦を求める戦いを決してあきらめなかった。障害者に対する社会情勢の改革に捧げた彼の貢献と功績を記念してウィリアム・ワトソン・ロッジ協会が設立され、このロッジに彼の名前が冠された。 
 協会は、基本財産のほか、施設利用料、民間などからの寄付によって運営されており、寄付者には多くの企業や団体などが列記されている。一例をあげるならば、ライオンズ・クラブ、ローターリー・クラブ、ニッケル財団、ユナイテッド・ウェイ・オブ・カルガリー(カルガリー共同募金会)、地域宝くじ協会ほかがある。
 ロッジには、完全にアクセシブルな22のユニットがあり、年間を通して利用でき、利用者は寝具や食事を持参することになっている。また、5月末から感謝祭(10月末)まで利用できる13ユニットのRVサイト、キャンプ・サイト、遊び場、ピクニック・サイト、車いすでアクセスできる20kmのトレイルがある。ロッジは、改装とアクセシビリティの向上のため、2年間の休館の後、2022年6月に再オープンされている。 
 
 利用者は、アルバータ州民であって、障害者として認定されている人は120日前から予約可。同高齢者(65歳以上)は、60日前から予約可。到着の際、資格証明書類を提示することが求められる。 
 
 以上が、今回、新たに開いてみたホームページから得た同ロッジの概要であるが、私たちが訪れた1990年秋の時、すでにWilliam Watson という名前は入り口に書いてあったが、協会が設立されたのはそれより2年後であったということなのであろう。 

 カナナスキスには3泊して、中の一日をバンフ観光など、もう一日はウィリアム・ワトソン・ロッジ見学などで楽しめた。障害者向けロッジの見学は、群馬にある山荘を彷彿とさせ、代表の姥山様始めメンバーは、自分たちも負けずにもっと活発にやっていこうと意を強くされたことを思い出す。こうして、カナナスキスは当初の予想以上に好評であった。しかしながら、添乗員としての失敗もあった。この時、宿泊したホテルでの夕食のこと。メニューははっきりとは覚えていないが、メインの肉料理と添え物(ジャガイモやニンジンなど?)はホテルのキッチンから重度の障がいのあるお客様には、召し上がりやすいように刻み食(Chopped Food)もできますよ、との申し出があった。障害のある人や高齢のお客様なども多く、ホテル側としては手馴れており、親切心で言ってくれたのであった。この申し出に対しては、当然、姥山代表であるとか団員として来ておられるスタッフなどに相談して、答えるべきであった。しかし、それを怠って、そうしていただければ、お客様も喜んでくださるだろうと勝手に返事したのが間違いであった。食事が始まり、刻み食が盛られたお皿が車いすの方々に運ばれた。そのお客様本人はもとより、一緒にきておられる家族やスタッフは何とも複雑な表情に変わり、みんなと同じように普通の料理にしてください、と申し出があった。ホテル側からは、グループリーダー(ここでは添乗員のこと)からYes!と返事があったので準備したのに・・と困惑され、結局もう一度準備し直してもらった。この時のお客様は、それぞれ食事時の汚れ防止のためのエプロンであるとか、料理用のはさみ、ビニールのストローやプラスティックのカップなどを携行されていた。食事はそれぞれ家族や同行スタッフが介助され、特別の注文がない限り、皆さんは同じものを召し上がるということで、事前勉強の不足や確認不足が招いた自分自身の失敗であった。 
 
 こうして、カナナスキスの滞在を終え、リフト付きの貸し切りバスでトランス・カナダ・ハイウェイからアイスフィールド・パークウェイを北上して、ジャスパーへ向かった。自分は、すでに二度この道は走っており、窓外の景色についてはガイドブックを片手に、そして、ドライバーにいろいろ聞きながらの1日ドライブであった。(以下、次号) 

【資料と写真: 上から順に】 
《資料》 
・William Watson Lodge Society :https://www.williamwatsonlodgesociety.com/ 
 
《写真》 
・ウィリアム・ワトソン・ロッジにて 1990年9月4日 筆者撮影 
・同上 説明を聞く、左端が説明していただいたマネジャー : 同上 
・ロッジサイト内のアクセシブル・トレイル : 同上 
・William Watson Lodge 近影 : アルバータ州公園局資料より 
・カナナスキスの乗馬場にて : 1990年9月4日 筆者撮影